33 手のひらを返す祖母
ティファリーが先日、ケインにプレゼントしたのは、鳩の形をしたカフスボタンだった。
ティファリーがデザインしたもので、職人に頼んで至急でつくってもらったものだ。
プレゼントを受け取ったケインはとても喜び、カフスボタンを城内で自慢して回った。
その話を初めて聞いた時は、子供っぽいところもあるのだなと思いつつも、そこまで喜んでもらえたことに嬉しさを感じていた。
そんな感情が吹き飛ぶことになったのは、その2日後のことだった。
噂を聞きつけた多くの貴族が同じ物を求めて、ティファリーの店に押しかけてきたのだ。
王子殿下への贈り物であり特注品だということを伝えたところ、似たようなものでいいから売ってほしいという声が多く上がった。
ティファリーは時間がかかることを認めてくれるのであればという条件で、その声に応えた。
予約は一年以上先まで埋まり、ティファリーは忙しいながらも充実した日々を送っていた。
しかし、ティファリーを憂鬱な気分にさせる出来事が起こる。
それはよく晴れた日の昼前のことだった。予約客やふらりと立ち寄った客の数も落ち着き、ティファリーが休憩に入ろうとした時だった。
勢いよく扉が開き、護衛らしき若い男性二人が入ってきた。そして、その後に着飾った老婆が店内に足を踏み入れる。
予約もなしに現れたのはエレインだった。白のドレスに身を包み、優雅な足取りで店内に入ってきたエレインは、ティファリーの姿を見るなり言った。
「ああ、私の可愛い孫娘のティファリー! ずっと会えていなかったから会いたくてたまらなかったのよ!」
満面の笑みを浮かべて近寄ってくるエレインに、ティファリーは眉根を寄せる。
「何をおっしゃっておられるのですか? 先日お会いしましたし、お祖母様にとって私は可愛い孫娘ではないでしょう?」
祖母の件は父に相談しており、ティファリーに近づかないように伝えてもらっていた。しかし、エレインはそんなことを気にする素振りはない。
「何を言っているのよ。意地悪なことを言わないでちょうだい。それよりもティファリー、お願いがあるの。ケイン殿下に差し上げたカフスボタン、お友達がほしがっているのよ。私にプレゼントしてくれないかしら」
エレインは満面の笑みを浮かべながら、さらりと厚かましいお願いをしてきた。
(今まで私の存在を無視しておいて、よくもそんなことが言えるものです!)
苛立ちを鎮めながら、ティファリーははっきりと答える。
「申し訳ございませんが、それはできかねます」
「そこを何とかしてちょうだいよ! 私の孫娘なら何とかしてくれるって、もうみんなに言っちゃったのよ」
「それなら、頼んだけれど無理でしたと伝えてはいかがでしょうか。申し訳ございませんが、身内だからといって贔屓するわけにはいきません。順番を待ってくださる他のお客様に失礼に当たります」
ぴしゃりと跳ね除けると、エレインの顔から笑みが消えた。目を吊り上がらせ、ティファリーに詰め寄る。
「ティファリー、あなたいい加減にしなさい。老人を……、ましてや自分の祖母になんて冷たい態度をとるの!」
「いい加減にしてほしいというのは、こちらのセリフです」
「あなた、祖母に向かってなんて口をきくの! 若者が老人に優しくしないなんて、信じられない行為だわ!」
「私にだって老人に優しくすべきだと思う気持ちはありますが、状況によります。それに、あなたは祖母の立場を強調されますが、孫のことよりも自分の利益を考えるような祖母のために、私が無理をする必要はありますか?」
ティファリーは冷たい眼差しをエレインに向けて尋ねた。




