30 どうぞお幸せに ②
ケインとはパス伯爵領に入る直前の街で合流した。事前に汚れてもいい服で来てほしいと言われていたので、踝丈のワンピースドレスにロングブーツという格好で来た。
日によって変えているリボンの色は、ケインの瞳の色にしてみた。
(深い意味はないです。ただ、直感です。用意したプレゼントも、ケイン殿下にはお世話になっていますし、そのお礼なだけです)
誰かに何か言われたわけではないが、ティファリーは目の前に座っているケインを見つめて考えた。
現在、ティファリーは王家の馬車に乗り換え、ケインとキャビンで二人きりの状態である。いや、正確には二人と二羽だ。
「ホッホロー」
ポッポとポポーポは嬉しそうにティファリーの膝の上で鳴いている。
「鳩たちはノーリー氏があげた餌は食べないが、他の人があげる餌はよく食べていた。それなのに、ポッポとポポーポだけ食欲がないって世話係が心配していたんだ」
「……そうでしたか」
ティファリーはケインが持ってきていた鳩用の穀類を手のひらにのせて、二羽の前に差し出した。
「「ホッホロー!」」
手をつつかれて痛みはあるのだが、美味しそうに食べている姿を見ると、そんなことは忘れてしまう。
「どうやらティファリー嬢の手から食べる餌が一番美味しいらしい」
斜め向かいに座るケインはポッポたちを優しく見つめて言った。
「お姉様の用意した餌は食べないのですか?」
「敵だとみなしているから、食べ物も危険だと思っているんだろう。仲間にも危険人物だと伝えているみたいだ」
「そうでしたか。本当に二羽は賢いですね」
お腹が減っていたのか、二羽は必死に餌を食べ続けている。そんな二羽を愛しそうに見つめているケインを見て思う。
(今のうちにプレゼントをお渡したかったのですが、ポッポたちを見ることに夢中そうです。邪魔をしてはいけませんし、帰りに渡すことにしましょう)
ティファリーは傍らに置いている白い小さな箱を見つめて苦笑した。
ゲッティが経営している宝石店に着いたのは、昼の3時前だった。
繁華街の中心にある、白亜のゲッティの店の前には多くの若い女性が集まっていた。
ティファリーとケインは、ポッポたちを馬車に残し、ゲッティの店の入り口が見える場所に移動した。
約束の3時になると、一人の女性が叫んだ。
「ゲッティ様が愛しているのは私一人だけよ! あなたたちなんかお呼びじゃないわ!」
「何を言っているのよ! 彼が愛しているのは私に決まっているでしょう!」
往来の激しい石畳の道の上で、二人の女性が取っ組み合いの喧嘩を始めた。その周りにいた女性たちも怒りながら参戦する。
「ゲッティは、私のことだけ愛していると言ってくれたわ! ティファリー様との婚約が破棄されたから、私たちは結婚するの!」
「何を言っているのよ! 結婚するのは私! 私だって愛してると言われたわよ! あなたは遊びなんじゃないの?」
「何ですって?」
事情を知らない人たちは、当然始まった女性たちの喧嘩に、目を丸くして足を止めている。
外が騒がしいことを不思議に思ったのか。宝石店の扉が開き、ゲッティが外に出てきた。バッティングしないように細心の注意を払っていた彼は、女性が集まっていることに驚いて目を見開く。
「ど、どうして……?」
自分の言うことを無条件に信じる女性しか、利用するつもりがなかったゲッティだった。彼女たちには何があっても自分の職場には突然押しかけてこないように頼んでいた。
それなのに、目の前には見知った顔の女性たちがゲッティを睨見つけている。
「ゲッティ様! あなたは私と結婚してくれるんですよね!?」
「私ですよね!?」
女性に囲まれたゲッティは、涙目になって口をぱくぱくと動かすことしかできなかった。




