23 婚約者の嘘
騎士に連行される際に泣き叫んでいたゲッティの話は、瞬く間に社交場で広まった。
ケインへの不敬については罰金で済んだが、莫大な金額でパス伯爵家の家計は一気に苦しくなった。
ケインは人付き合いは苦手だったが、家族との仲は良好だったため、その話は王族にも知られることとなった。
今までイトメニア公爵家の三女は、嘘つきで意地が悪いと、姉たちのせいで誤解されていた。
しかし、ノーリーとゲッティの一件により、社交界での評判は変化する。嘘つきは姉であり、妹は家族にさえも信じてもらえなかった悲劇の人物となった。
そんなこともあり、ティファリーの宝石店には多くの貴族が足を運んだ。
わざわざ、何日もかけてやって来た人もいたため、予約優先ではあるが、できる限りの対応をした。
公爵令嬢なのに偉ぶらず、謙虚であるという噂も広まり、イトメニア公爵家の醜聞はティファリーのおかげで良い噂に塗り替えられた。
ゲッティの経営する宝石店は、多くの平民の女性が集まりはしたものの、貴族は集まらず、大した売り上げにはならなかった。
このままでは伯爵家は没落、ティファリーとの婚約も駄目になってしまう。そう考えたゲッティは、また嘘をつき始めた。
そのことをティファリーが知ったのは、ポポーポの足に付けられていた、ケインからティファリー宛の手紙によってだった。
「ホッホロー、ホッホロー!」
いつもは次兄の所に行ってからティファリーの部屋に来るため、ポポーポの足に手紙は付いていない。
しかし、今回は違った。
ティファリー嬢へと書かれていたため、次兄は手紙を足から外さなかったのだ。
ポポーポにしてみれば、手紙を取り外してもらわなければ任務完了にならない。そのため、必死にティファリーに訴えていた。
「ケイン殿下から私宛の手紙のようですね。考えられるとすれば、ノーリーお姉様のことでしょうか」
(お兄様にもノーリーお姉様がどうしているか確認しないといけません)
独り言を呟きながら、ポポーポの足から手紙を外すと、嬉しそうにポッポと戯れ始めた。
そんな二羽に癒されつつ、ティファリーは手紙を読み始める。
ケインからの手紙には、ティファリーの店の売上に対抗するため、多くの女性に結婚の話をもちかけ、宝石を買わせているとのことだった。
現在、ティファリーの長兄であるソーラドが証拠固めに入ったとも書かれていた。
「私と婚約したままですのに、結婚詐欺までしているのですか」
(浮気には刑罰はありませんでしたが、詐欺となると変わってきます)
ティファリーは、ゲッティとの婚約の破棄が認められる日が近いことを確信した。
そして、ゲッティに騙されている人たちに、彼の本当の姿を見せることにした。
(今更ですが、自分の人生なのですし、相手のペースに合わせて進むのはもう終わりにしましょう)
ティファリーはそう決意し、ケインにお礼の手紙を書く用意を始めた。
******
ケインから手紙が届いた日の夕食時に、王城を出入りしている兄のソーラドに、ティファリーはノーリーの様子を尋ねてみた。
「ノーリーお姉様はちゃんとお仕事ができているのでしょうか」
「……そうだな。僕も殿下に呼び出された時にしか王城に行っていないから、その時に見た話でもいいかな?」
「もちろんです」
「ティファリーのように鳩たちと会話ができないから絶対とは言えないが、鳩たちに嫌われているように見えたな」
ソーラドがノーリーの様子を見に行った時は、ノーリーが掃除をした所にわざと糞をするという行為を鳩たちが交代で行っていた。一般的にトイレの躾は難しいと言われている。ノーリーを見ると無意識に排泄がしたくなるようだった。
ノーリーはその度にヒステリックになって怒った。しかし、鳩たちの攻撃に遭い、泣きながら鳩舎から出ていき、落ち着いたら掃除をしなおしているようだった。
(しつけはしっかりされているようですが、お姉様のことを敵だと思っているようですね)
鳩同士でコミュニケーションを取っているため、ノーリーを初めて見た鳩たちも敵だと認識しているようだった。
「気になるなら、明日、一緒に王城に行こうか。殿下もティファリーに会いたがっているし」
「殿下が私にですか?」
「そうみたいだ。もし、殿下に口説かれるようなことがあったら、僕に教えてくれないか?」
「そんなことはないと思いますが……」
「いや。殿下はティファリーのことを気に入っているようだし、婚約の破棄が決まれば、何を言ってくるかわからない」
心配そうにしているソーラドに、ティファリーは微笑みかける。
「私はまだ婚約の破棄を訴えているところで、正式に認められたわけではありません。そんな人物をケイン殿下は口説いたりなんてしないと思います」
「……そうだな。そう信じよう」
ソーラドはため息をついてうなずいた。
次の日、ティファリーはソーラドと一緒に登城した。
急な来訪にもかかわらず、ケインはティファリーを歓迎し、自らが鳩舎に案内すると申し出た。
ソーラドも一緒に行こうとしたが、同僚に仕事のことで聞きたいことがあると言われ、同行することができなかった。
踝丈のピンクのドレスに身を包んだティファリーは、歩幅を合わせて歩いてくれているケインに礼を言う。
「あの、殿下、色々ありがとうございます」
「俺は何もしてない」
「何もしてないだなんて! 今だって鳩舎まで連れて行ってくださっていますし、ゲッティのことも調べていただいていて、殿下には感謝の気持ちしかありません」
「役に立てているならそれでいい。名前が出たついでに話をするが、彼は自分に貢いでくれている女性に、ティファリー嬢が婚約を破棄してくれないと嘘をついているそうだ」
「……信じられません!」
ティファリーが声を大きくした時だった。
「ちょっと、もうやめて、やめなさいって言ってるでしょお!」
前方からノーリーの叫び声が聞こえてきたのだった。




