22 焦る婚約者 ②
(やっと自分が誰と話しているのかわかってくれたのでしょうか)
ティファリーは震え始めたゲッティを見つめながら思った。
「……ほ、本当にあなたはケイン殿下なのですか?」
信じられないというよりかは、信じたくないという気持ちで、ゲッティはケインに尋ねた。
「そうだが? どうすれば信じるんだ? あ、これならどうだ?」
呆れた顔をしたケインは、彼の背後に立っていた騎士に指示する。
「俺の剣を」
「殿下、どうぞ」
そう言って騎士が差し出したのは、銀色の鞘に収まった長剣だった。柄には王家の紋章が施されており、偽造することは許されない。模造品を作ったり、売買した場合は重罪に値する。
さすがのゲッティもそれくらいのことは理解していた。
「あ……あ」
冷や汗を流し、口をぱくぱくと開閉させるゲッティに、ティファリーがとどめを刺しにかかる。
「ゲッティ、ノーリーお姉様が今、どうしているかくらい知っているのでしょう?」
「……そ、そうだった」
ゲッティは、ノーリーが王家や高位貴族に飼われている鳩の世話をしなければならなくなったことは知っている。
嘘をついたノーリーへの罰だとは聞いていたが、どうして鳩の世話をすることになったのかまでは知らなかった。
「だ、だけど、どうしてノーリーは鳩の世話をしなくちゃいけなくなったんだい?」
「嘘をついた罰ではありますが、お姉様がケイン殿下の鳩を馬鹿にするような発言をしたからです」
そう言って、ティファリーは二羽の鳩を撫でた。鳩たちは人間のように表情があるわけではない。ただ、ジッとゲッティを見つめている姿は「お前の顔は覚えたぞ」と言っているようにも見える。
王家の紋章が刻まれた剣まで見せられて、目の前にいるケインが偽物だと言えるほど、ゲッティの神経は図太いわけではなかった。
自分は鳩の悪口を言ったわけではない。ただ、王子のことを大した客ではないと言ってしまった。
自分の発言を思い出したゲッティの顔色は、どんどん青くなっていく。
「ケイン殿下、不届き者はわたくし共にお任せください」
「そうだな。あとは頼む」
小声で話しかけた騎士にうなずくと、ケインはティファリーに話しかける。
「商談中はポッポたちは鳥籠に入れておこう」
「そうですわね。間違って宝石を飲み込んだりしては大変ですもの」
万が一のことを考え、ティファリーは騎士が持っていた鳥籠にポッポたちを1羽ずつ入れていった。
二羽共に不満そうなのか、籠の中に大人しく入ったものの「ホッホロー!」と不満そうに鳴いている。
「ごめんなさい。あとでゆっくり遊びましょうね」
二羽に優しく声をかけ、ケインを店の中に招き入れようとした時だった。
騎士に両腕をつかまれたゲッティが叫ぶ。
「申し訳ございません! ですが殿下! 先程の発言はティファリーにそう言うように命令されていたのです!」
平気で嘘をつくゲッティをティファリーは睨見つける。
「嘘をつくのはやめていただけますか。それからパス伯爵令息、私のことをティファリーと呼ぶのはおやめください」
「な!? 僕は君の婚約者だよ!? それくらいいいじゃないか!」
「私にとって、もうあなたは婚約者ではありません。それから、あなたは王族に無礼を働いたのです。私のことなど構っている場合ではありませんよ」
ティファリーは微笑みながら冷たく答えた。それは今までに見せたことのない冷ややかなもので、さすがのゲッティの表情も引きつる。
「え、あ、それは、君が僕に命令して」
「嘘をつくのはおやめください。もう、あなたと話すことなんてありません」
ティファリーは騎士にゲッティを連れて行くように頼むと、容赦なく扉を閉めた。
「嫌だぁぁ!」
閉ざされた扉を見つめながら、ゲッティは泣いて抵抗した。しかし、大して体を鍛えてもいない令息が、騎士相手に敵うはずがなかった。




