21 焦る婚約者 ①
社交場で見るようなフォーマルな服装ではなく、ラフな格好をしているケインを見るのは初めてだった。そんなこともあり、ゲッティは相手が王子であるということを、すぐに判断できなかった。
呆然としているゲッティにケインが尋ねる。
「おい、聞いているのか」
「……え? あ、まさか……いや、そんなわけがない」
相手の顔をまじまじと見つめ、相手が王子に似ているとわかった瞬間、ゲッティの額に汗の玉が浮かび上がった。
(ケイン殿下が鳩を抱えているなんてありえないと思う気持ちもあるのでしょうけれど、こんなに整った顔立ちの方はそういません。すんなり理解していただきたいものですが……)
ティファリーは冷ややかな目でゲッティを見つめる。すると、その視線を感じたゲッティは勘違いをする。
「ティファリー、そ、そんなに僕を見ないでくれよ。やっぱり、君は僕を忘れられないんだな」
「そんなわけがないでしょう! あなたが殿下に無礼な態度を取らないか見ていただけです!」
「やっぱり僕を見ていたんじゃないか! そんなにも僕のことが好きなのに、どうして婚約を破棄するなんて言い出したんだい?」
「警戒していただけで心配して見つめていたわけではありません! 誤解しないでください!」
ティファリーは呆れた顔で訴えたが、ゲッティは頭を振る。
「ティファリー、意地を張るのはやめたほうがいい。僕にだって許すにも限度があるんだよ」
「うう。この人、話が通じませんね」
ティファリーはこめかみを押さえて呟き、再度念押しをする。
「私はあなたに未練なんてありません! あなたとの婚約を破棄したくてたまらないのです! ノーリーお姉様から聞きましたが、あなたはノーリーお姉様を愛しているのでしょう? それならお姉様と婚約してはいかがですか?」
「はは~ん。嫉妬してるのか」
ゲッティはケインを視界に入れないようにしているのか。ティファリーのほうしか見ない。
(自分の都合の悪いことは見たくないという気持ちはわからないでもないですが、王子相手に失礼すぎるでしょう)
ティファリーはため息を吐いて答える。
「違います。あなたへの愛情なんてこれっぽっちもありません。それよりも、殿下がいらっしゃるのですよ」
「はいはい、わかったよ」
ニヤニヤと笑うゲッティに、ティファリーは殺意を覚えたが何とか心を落ち着かせようとした。
(目の前にいる人は普通の人ではありません。この人は私が何を言ってもポジティブに捉えるだけです。殿下にご挨拶したあとに、先程の無礼な発言について責めましょう)
大きく深呼吸をして怒りを鎮めたあと、ティファリーはケインにカーテシーをする。
「ケイン殿下、本日はようこそお越しくださいました」
「気にするな。王子が贔屓にしていると公にしたほうが、この店も儲かるだろう?」
「お気遣いいただきありがとうございます」
「「ホッホロー!」」
ポッポたちは、ティファリーの所に行きたいと言わんばかりに、ケインの腕の中で暴れた。そんな二羽を見つめ、彼はため息を吐く。
「まったく、飼い主は俺なんだが、俺よりも君のほうが好きみたいだ」
「光栄ですわ。ですが、二羽にとって一番大好きな方はケイン殿下だと思います」
ケインが抱く力を弱めると、二羽はティファリーの両肩にそれぞれがとまり、撫でてほしいと顔を擦り寄せた。
「二羽共に甘えん坊さんですね」
ティファリーは二羽を両手であやしながら、ケインには眉尻を下げて謝る。
「先程は見苦しい場面をお見せしてしまい申し訳ございませんでした」
「気にするな。それにしても第二王子とはいえ王族の俺を大した奴じゃないと言うんだから、目の前にいるこいつは、さぞかし偉いんだろうな?」
もちろん、ケインも相手は誰だか知っている。この発言は明らかな嫌味だった。ティファリーもそのことを理解して答える。
「伯爵家の子息ですわ。殿下よりも偉いなんてことはありえません」
「ふぅん。そうか」
ティファリーはまた馬鹿なことを言われても困るため、ゲッティを見ることはなかった。
その代わりではないが、ケインから冷たい視線を送られたゲッティは「ひっ!」と声を上げて姿勢を正した。




