18 姉への罰 ①
まさか、ティファリーがここまで反撃してくるなど、ノーリーは夢にも思っていなかった。流れ落ちてくる汗をそのままに、ノーリーは訴える。
「馬鹿なことを言わないでちょうだい。私はケイン殿下をお慕いしているの。だから、話を疑ったりしない! 疑っているのはあなたのことよ!」
そんなことは初耳だった。
ティファリーは一瞬驚いたものの、すぐに嘘だと判断した。それでも、念のために確認する。
「お姉様はケイン殿下をお慕いしているのですか?」
「そ、そうよ。だから私はケイン殿下を疑ってなんかいない。私が疑っているのはあなたよ!」
隣にノウンがいることを忘れ、ノーリーはティファリーを見下ろし、指をさして叫んだ。
怒りと焦りで呼吸は荒くなり、おしとやかな演技をすることも忘れている。
ノウンは、ずっとノーリーが淑やかな女性だと思い込んでいた。この時になってやっと、自分の目が節穴だったことを痛感した。
「たとえどれだけ私を疑っていると訴えたとしても、あなたの言っていることは、殿下の証言を疑っていることに変わりはありません」
「違うって言っているでしょう! 殿下は部下を信じただけ! 何も悪くないわ!」
これ以上話をしても無駄だと諦めたティファリーは、静かにソファから立ち上がった。ノーリーは体を震わせてティファリーを見つめる。
「ど、どうかしたの?」
「お話はもう十分です。私は次のステップに移ろうと思います」
「……次のステップ? ティファリー、あなたは一体何を考えているの?」
「ケイン殿下にご相談するだけです」
ティファリーは柔らかな笑みを浮かべて答え「お父様、私はここで失礼いたします」と言って一礼した。そんな彼女をノーリーが呼びとめる。
「待って! そんなことをされたら私はどうなるのよ!? あなたはそんなに私に不幸になってほしいの!?」
「おっしゃっていることの意味がわかりません」
ティファリーは歩き出した足を止め、ノーリーを冷ややかな目で見つめた。
「殿下に告げ口なんてされたら、私は不敬だと言われるに決まっているわ! そんなことになったら私は……!」
「不敬だと判断されたくなければ、正直に話をしてはいかがです? 浮気をしてはいけないことだと私個人は思っていますが、刑事罰にはなりませんよ」
争うなら民事としてだが、慰謝料を請求したとしても父が払うだけ。それなら意味がない。今、ティファリーがノーリーに求めることは、ただ、事実を認めることだった。
事実を認めれば、彼女の評判はティファリーが何もせずとも地に落ちるからだ。
「……わかった。わかったわよ! 認めればいいんでしょう!? そうよ! 私はあなたからゲッティを奪った! これで満足!?」
「お父様、お聞きになりましたか?」
ティファリーはノーリーの質問には答えず、ノウンに尋ねた。
「……ああ。よく聞こえたよ」
ティファリーを見上げ、ノウンは眉尻を下げてうなずく。
少しの間、部屋の中は静寂に包まれた。
(さあ、やらなければならないことがあります。私はここで出ていくことにしましょう)
「では、私はここで失礼いたします。お父様、お姉様への罰は提案したいことがございますの。後ほど、お時間をいただけますでしょうか」
「もちろんだ」
ティファリーは笑顔で扉に向かって歩いていく。そんな彼女とは正反対に、ノーリーの顔色は真っ青で表情は絶望に満ちていた。
ノーリーは自分にとってダメージが少ないほうを選んだつもりだった。
世間からの自分への評判は悪くなるが、ゲッティに脅されていたと嘘をつけばいいと考えたのだ。
両親からはティファリーの件で嘘をつき続けていたことについて、強く責められることはなかったが、反省を促された。
なぜ反省をしなければならないのか。
不本意ではあったものの、反省したふりをして部屋から出ることをやめた。
ティファリーはすぐに、ノーリーが反省などしていないと見抜く。
「お姉様、悪いと思っているのなら、素直に罰を受けてくださりますよね?」
「そ、それは……っ」
「それは、何ですか?」
反省しているふりをしているノーリーは、頷くことしかできなかった。
もちろん、素直に大人しくなるノーリーではない。この話し合いから五日後、ノーリーの部屋に罰の内容を知らせに行ったティファリーは、ノーリーからこう尋ねられた。
「ティファリー、あなたはどうしたら許してくれるの?」
(やっぱり反省なんてしていないんですね)
期待などしていなかったティファリーは、これ見よがしに大きなため息を吐いた。




