17 姉を許さない妹 ➂
ノウンはノーリーが自分に助けを求めていることはわかっていた。今までならば、ケンカは良くない。気に入らないことがあるからと言って、姉を責めてはいけないとティファリーに言い聞かせようとしていたからだ。
だが、今この時になってやっと、自分がノーリーを贔屓していたことに気がついた。
計画性もなく子供を作ったわけではないが、ノーリーには寂しい思いをさせてしまったかもしれないという負い目を心のどこかで感じていた。 ティファリーが早々に自分たちに期待しなくなったことで、それを当たり前のように思うようになっていた。
本当ならば、もっと早くにノーリーの本性に気づけていたはずなのに、無意識に目を背けてしまっていたのだ。
「ノーリー、本当にすまない」
「……え?」
ノーリーは間の抜けた声を上げて聞き返した。ティファリーも驚いた様子でノウンを見つめる。
ノウンは自分の腕をつかむノーリーの手を優しくはがし、優しい口調で言った。
「今は私には頼らず、ティファリーと向き合って話してくれ」
「……承知いたしました」
都合が悪くなれば両親に頼っていたノーリーは、ノウンが助けてくれないことに苛立ちを覚えた。
しかし、怒りの矛先は、ノウンではなくティファリーに向けられる。
暫しの沈黙の後、ノーリーは口を開いた。
「ティファリー、お父様に嘘の話をしたのね?」
「どうしてそう思うのですか?」
「だってそうでしょう? 今までは優等生である私が正しいと味方してくれた。それなのに……!」
「お姉様、本来ならば、姉と妹が同時に正反対の話をした時、両親が無条件に姉の話だけを信じることはおかしいのです」
さすがのノーリーも、この意見に言い返すことはできなかった。目を伏せた父を見て、このままでは良くないと、ノーリーは焦る。
「ティファリー、そんな話をしに来たの? もうやめて。あなたがどんなに調査したって一緒。あなたや元夫が調べたことが書かれている報告書なんて、私を陥れるための嘘が書かれているに決まっているわ。そんなの証拠ではないの」
「お姉様、それが違うんです」
ティファリーは満面の笑みを浮かべて頭を振った。
それを見たノーリーの表情が歪む。
「……は? どういうこと?」
「ケイン殿下も調べてくださったんです。そして、その報告書には、お姉様とゲッティの浮気は事実だと書かれていました」
「何ですって?」
笑顔のティファリーとは裏腹に、ノーリーは涙目になって聞き返した。
「ですから、私やウノユ侯爵が調べたのではなく、ケイン殿下から頼まれた方が調べたのです。そして、ケイン殿下がこれは事実だろうと認めたのです。もしかしてお姉様は、ケイン殿下の報告書も私が手を加えたとおっしゃるのですか?」
そうだと言いたいところだが、そんなことを言えば、王族への不敬に当たる。
ノーリーの額から汗がじんわりとにじみ始めた。
「そ、そういうわけじゃないわ」
ノーリーは必死にこの危機を回避する方法を考える。そして、思いついたのは話をすり替えることだった。
「それよりもティファリー、あなた、いつの間にケイン殿下と親しくなったの?」
「親しくなったわけではございません。お姉様もご存じかと思いますが、私が可愛がっていた鳩たちが殿下の鳥だっただけです」
「たしか傷ついた鳩を助けたのよね? そのお礼に手を貸してもらうようにお願いしたんじゃないの?」
ノーリーの頭では、ティファリーがケインに無理やり頼んだという方向に持っていきたかった。
しかし、ノーリーの考えなどティファリーにはお見通しだった。
「お姉様はケイン殿下がそのような方だとお考えなのですか?」
「……そのような方?」
「お姉様は鳩を助けた恩を返してもらうという理由で、私がケイン殿下に嘘の証言をお願いしたとおっしゃりたいのですよね?」
「そうよ」
「そんな理由でケイン殿下は嘘をつくと思っていらっしゃるのかとお聞きしたいのです」
「……そ、それはっ」
ノーリーは返す言葉が見つからず、口を噤んだ。
(お姉様はどうしても私を悪者にしたいようですが、関わっている相手が王子殿下ですから、下手なことは言えないはずです)
焦った様子で唇を噛み、視線を彷徨わせているノーリーに話しかける。
「お姉様、もう諦めてください。これ以上、ゲッティとの仲を否定すればするほど、あなたの立場は悪くなるだけです」
「私は嘘なんてついていない!」
「では、ケイン殿下が嘘をついていると?」
「違うわ! そのっ、ケイン殿下が調べさせた人がティファリーに買収されているのよ!」
苦しい言い訳をするノーリーに付き合っていられないと言わんばかりに、ティファリーは首を横に振った。
「反省してくれるのであれば、救いがあると思っていました。ですが、お姉様を助けられる道はなさそうです」
「……どういうこと?」
ノーリーは眉間に皺を寄せて尋ねた。ティファリーは冷めた目でノーリーを見つめて答える。
「誰かに調べさせたとはいえ、ケイン殿下が目を通して納得されたからこその報告書です。お姉様が報告書を虚偽のものだと訴えている話を殿下にさせていただきます」
「やめて!」
ノーリーは悲痛な声を上げながら立ち上がった。




