19 姉への罰 ②
「ねぇ、ティファリー、聞いているの? 私、本当に反省しているのよ」
毎日泣いているのか、ノーリーの目は腫れ上がっており、髪も艶がなくパサパサだ。
(反省して泣いているというよりは、私に負けて悔しくて泣いているのでしょうか)
ネグリジェ姿のノーリーに、ティファリーはソファには座らず、扉の前に立ったまま答える。
「許すつもりはありません。お姉様には罰を受けていただきます」
「罰なんて本気なの? 悪いことをしたことはわかっているわ。だけどティファリー、あなたも知っているでしょう? 私はもういい年になるの。この年で嫁にいけていないなんて、社交界ではありえないことよ。罰なんて与えられたら、嫁にいけなくなってしまうわ!」
「戻ってこられましたけど、嫁にはいきましたわよね?」
「戻ってきたのでは駄目なのよ」
貴族の中にも一生独身の女性がいるし、離婚する人だっている。それは決して悪いことではない。ただ、ノーリーの中では恥ずかしいことだった。
「嫁にもらってくれる当てがあるのですか?」
罰を伝える前に、ティファリーは興味本位で聞いてみた。ベッドに座っているノーリーは大きくうなずく。
「ええ、そうよ」
「お相手はゲッティですか?」
「違うわよ! 言ったでしょう? 私はケイン殿下をお慕いしているの。少しでも彼に近づきたい。お近づきになって、私の魅力に気づいてもらいたいの! それなのに罰を受けたりなんかしたら……」
「それなら良かったです!」
「は?」
手を合わせて微笑むティファリーを、ノーリーは目を丸くして見つめた。
「お姉様への罰は、城の鳩舎で働いてもらうことですから」
「……は?」
「鳩舎にはポッポたちだけでなく、両陛下や王太子殿下、官僚たちの鳩がいます。皆さん、とても鳩を可愛がっておられますから、扱いにはお気をつけくださいね」
「……は?」
「鳩舎は王城の近くにあります。公爵邸にいるよりかはケイン殿下にお近づきになれますね」
ティファリーは満面の笑みを浮かべているが、ノーリーは今聞いた話が信じらず呆然としていた。
ぽかんとした顔で自分を見つめているノーリーに、ティファリーはとどめを刺す。
「厩舎の掃除で、獣臭くならないようにお気をつけくださいませ」
「……は?」
呆然としているノーリーをそのままに、ティファリーは笑顔のまま部屋を後にした。
ノーリーの罰を決める際に、ティファリーは父から意見を求められていた。
できればもう一緒に住みたくない。関わりたくない。彼女が近くにいる限り、自分の幸せは望めないと思った。
かといって、修道院に入れるのは違うと考えた。ティファリーにとって、修道院は反省している人が行く所であり、罰を与えるのならば強制労働所という考えだったからだ。
(今のところ、お姉さまが認めたのはゲッティとの浮気のみで刑事事件には該当しません。それなら……)
ティファリーはノーリーにとって苦しい罰を考えた。そして、思い浮かんだのが鳩舎の世話係だった。
ノーリーは動物が好きではない。髪や服が汚れる、獣臭いと言って世話を嫌がるのは目に見えていた。
動物好きの人間には鳩の世話は罰にはならないが、ノーリーには十分な罰になる。そう考え、父に仲介してもらい、王家に許可を取った。
ノーリーが働き始めるのは三日後から。それまでに使用人のために用意された寮に移り住むことになる。
「私は公爵家の人間なのに、こんな仕打ちなんてないわ!」
我に返ったノーリーは、廊下まで追いかけてきて泣きわめいたが、ティファリーは同情しなかった。
「つかなくてもいい嘘をつき、自分の首を絞めたのはあなたです。あなたはもういい大人なんです。妹をいじめたり、人を陥れようとする行為はやるべきものではないと、この件で実感してください」
一般的な人なら罰を与えられなくても、いじめなどするものではないと判断できるはずだ。
それができないのは、無意識のうちに自分を中心として世界が回っていると考えていることが多いからだ。
ノーリーのような人物には、いくら正論を話しても通じない。
いじめはやってはいけないことだとわかっている。だけどむかつくから。いじめられるようなことをするのが悪い。などと、自分の非は認めようとしない。
「嫌よ! フンの掃除もしないといけないのでしょう? できるわけがないわ!」
「仕事はちゃんと教えてもらえますからご心配なく。寮での生活なんて滅多に体験できることではありませんから頑張ってくださいね」
「許してよ! あなたが許してくれたら、私はそんなことをしなくてもいいの! 反省すればいいんでしょう!」
ノーリーは必死になってティファリーの手をつかもうとしたが、素早く逃れて微笑む。
「許しません。今までの嫌がらせや、ゲッティと浮気したこと。一生覚えています。された側の心の傷はそう簡単には癒えないことを胸に刻んでください」
「そこを何とか許してよ! 癒えなくても忘れればいいじゃない!」
(本当に救いようがない人ですね)
ティファリーは、お手上げだと言わんばかりに首を振った。そして、ノーリーの部屋の前に立っていた兵士に指示をする。
「もう話をしたくありません。お姉様を部屋の中に戻してあげてください」
「承知いたしました」
兵士は素早く動き、暴れるノーリーを抱き上げて部屋に向かって歩き出す。ノーリーは足をバタバタと動かして抵抗する。
「まだ話の途中なのよ! ねえ、ティファリー! 私は不衛生なものが大嫌いなの! お願い、許して!」
「……お姉様、ゲッティは複数の女性と関係を持っていました。不衛生なものは初めてではないはずです」
「やめて、やめてよ! そんな嫌なことを言わないで!」
ノーリーが頭を抱えながら叫んだと同時に、兵士は部屋の中に入っていった。
この時からノーリーは部屋に閉じ込められ、2日後の朝、公爵邸から寮へ運ばれていったのだった。




