15 姉を許さない妹 ①
詳しい話を聞いたケインは、ティファリーの宝石店に通うと約束してくれた。
婚約の破棄が認められる前に、年頃の男性が宝石店に通うのはどうかとも思ったが、何に興味を持つかは彼の自由だ。一貴族が王族に対してどうこう言える立場でもない。
ティファリーは「ご来店をお待ちしております」と頭を下げた。
その後はポッポたちの話に花が咲き、和やかな会話が途切れたところで、ケインを見送ることになった。
(ケイン殿下はいつも不機嫌そうな顔をしていらっしゃったから近寄りがたかったのですが、とてもいい方でした)
ポッポたちの飼い主というだけでなく、ノーリーよりも自分を信じてくれたことが、ティファリーに好印象を抱かせた。
(さて、お父様はノーリーお姉様をどうするおつもりなのでしょうか)
見送りに出てきた母に、ノーリーのことを話している父を見つめながら考える。
(使用人たちのお姉様への態度も変わるでしょうね)
エントランスホールでの立ち話のため、多くの使用人の耳に届いていた。
ノーリーが今までのように強気に出ることができないとわかった使用人たちは、ティファリーの思った通り、ここぞとばかりにノーリーの本性を暴露し始める。
「旦那様、ずっとお話できなかったことがあるのです」
「私もです! ノーリー様のことで話を聞いていただけませんか!」
突然の暴露大会にノウンたちは困惑しながらも話を聞いた。一通り聞き終えると、眉尻を下げているティファリーを見つめた。そして、ノーリー以外の家族は彼女のもとに集まった。
「まさか、ノーリーがそんなことをしているなんて思いもしていなかった。本当にすまない」
「まさか、姉上がそんな人だったなんて……、ごめんよティファリー」
謝る父たちにティファリーは微笑む。
「一生わかってもらえないかもしれないと思っていましたから、真実に気づいていただけただけでも良かったです」
「あの子は私の母に似たのかもしれないわ。外面は良いけれど、邸内では別人のようだったから……」
アンはため息を吐いて俯いた。
ティファリーは、母方の祖母に、ここ最近は会っていない。というのも、祖母がティファリーの見た目を気に入らず、拒否するようになったからだ。
(お祖母様はお姉様たちのことはとても可愛がっているようでした。私とお母様の雰囲気は似ているとよく言われますし、お母様を思い出すから嫌だったのでしょうか)
そんなことを考えたティファリーだったが、すぐに気持ちを切り替えて話題を変える。
「お父様はノーリーお姉様をどうされるおつもりですか? お咎めなしなんてことはありませんよね?」
「もちろんだ。まずは、パス伯爵令息との浮気について調べ直す。それから、彼女本人にも確認する」
「お父様にお願いがあります」
「……どうした?」
真剣な表情でティファリーはノウンを見つめて続ける。
「ノーリーお姉様もそう簡単に自白はしないでしょう。私からお姉様に質問をしますので、お父様は黙って聞いておいていただけないでしょうか」
「……構わないが、ティファリーは辛くないのか?」
「いいえ。お姉様に今までの借りを返す時がきたのだと思うと、胸がワクワクしてきます」
ティファリーが満面の笑みを浮かべて答えると、ノウンは安堵の表情を浮かべた。重い雰囲気を変えようと、ティファリーは明るい声で父を促す。
「さあ、行きましょうお父様。お姉様への罰は私との話を聞いてから検討してくださいませ」
ティファリーは父の返事を待たずに、颯爽と歩き出した。
(妹の婚約者を奪う姉なんていりませんし、公爵家の娘としてもふさわしくないはずです。もうお姉様も子供ではないのですから、自分の言動に責任を取ってもらいましょう)
ノーリーの過去の悪事を引き出せば引き出すほど、彼女の罰は重いものになる。
負け続けていた戦いを今日で終わらせる。
ティファリーはそう心に誓い、父と共にノーリーの部屋へと向かった。
心配だと言って付いてきた兄たちと共にノーリーの部屋の前に立つ。
まずはノウンがノックをして声をかけた。
「ノーリー、話がある」
「……っ! お父様ですか? 私もありますわ! どうぞお入りになって!」
部屋の扉が勢いよく開かれ、目を真っ赤にしたノーリーが顔を見せた。
そして、ティファリーがいることに気づくと、一瞬だけ眉間に皺を寄せた。
今までならこの一瞬は見過ごされていた。しかし、ノーリーを怪しんでいるノウンたちは、この変化に気がついて表情を厳しくした。
「ノーリーお姉様、お話があります」
ティファリーに話しかけられたノーリーは、引きつった笑顔で応える。
「ごめんなさいね、ティファリー。私は先にお父様と話がしたいの。その後、ゆっくり話をしましょう」
普段ならば、父は妹だから姉を優先しなさいと言ってくれていた。ノーリーの考えでは、今回もそうなるはずだった。
しかし、ノウンは静かに頭を振ってノーリーに指示する。
「ノーリー、私と話すより先にティファリーの話を聞きなさい」
「で、ですが、ティファリーは私を嫌っているのです。二人きりになったら、意地悪をしてくるに決まっています」
両手で顔を覆って泣く仕草をするノーリーに、ティファリーは微笑んで話しかける。
「お父様も一緒に話を聞いてくださいますから、二人きりではありませんわ。それから、私は一度もお姉様をいじめてなどいません」
ティファリーのノーリーを見つめる目は普段とは違い、とても鋭いものだった。
ノーリーは戸惑った様子を見せたが、渋々といった様子で、先にティファリーの話を聞くことを承諾した。




