13 第二王子の目的 ①
ティファリーは今までとは違う展開になっていることに改めて驚いていた。
自分で思うのも悲しくなるが、いつも家族は姉の言うことばかり信じていた。それなのに、今日は違う。
(今までは証拠がなかったから信じてもらえなかっただけなのですね)
心が綺麗なティファリーには、姉に罠をしかけるという考えは思い浮かばなかった。しかし、今になってやっと、我慢するだけが正解ではないのだと悟った。
(そうとわかれば、これからはしっかり反撃させていただきましょう)
ティファリーがそう考えている時、ノーリーは焦り顔でノウンに訴えていた。
「ち、違うんです、お父様! 前々から、ティファリーがケイン殿下は私に気があると言っていたんです! ですから、今回婚約の話をしに来てくださったのだろうと思ってしまったんです!」
「そんな言い訳は通じん。ノーリー、お前とはしっかり話さないといけないな。とにかく、今は部屋に戻って大人しくしていなさい」
「そ、そんな、お父様、信じてください! 私は本当にティファリーに騙されたんです」
ノーリーはポロポロと大粒の涙を流す。
一般の人なら、こんなに簡単に涙を流すことはできない。
だから、彼女が本当に泣いているのだと誤解してしまう。女性に泣かれてしまうと怯む男性も多い。ノウンやソーラドたちも同じだった。
ノーリーは今回もそのパターンで押し切るつもりでいた。
しかし、その読みは外れ、ノウンはノーリーを叱責した。
「殿下の前だぞ。みっともない真似をするのはやめなさい」
「そんな!」
ノーリーは悲痛な声を上げて、ノウンに縋り付く。
「本当に本当なんです! 信じてください、お父様!」
「ノーリー、お前のことは可愛い娘だと思っているが、嘘をつくのは良くない。それに、お前はもうすぐ三十歳になるんだ。もう少し落ち着きというものを持ちなさい」
「私をこんな風にしたのは、お父様たちじゃないの!」
わあわあと泣き出したノーリーを、ティファリーは憐れんだ目で見つめる。
(甘やかしたお父様たちにも問題はありますが、嫁に出たことがあるのですから、もう自分で判断できるようにならないといけませんよね)
「お姉様、もうみっともない姿を見せるのは止めにして、部屋にお戻りください」
「な、なんですって!?」
涙をボトボトとカーペットに落として、ノーリーはティファリーのほうに振り返った。
「お父様がおっしゃる通り、殿下の前です。それにお姉様は殿下のことをお慕いしているのでしょう? そのような方の前で取り乱すのは、悪い印象しか与えませんよ」
「し、慕っているというか……」
ノーリーの中では、ケインと結婚すれば多くの人に羨ましがってもらえる。
ただ、それだけの気持ちだった。
しかし、本音を口に出すわけにはいかない。
「それは……そうかもしれないけどっ」
慕っているという言葉には触れず、ノーリーは曖昧に返した。大きなため息を吐き、ケインはノーリーにとどめの言葉を発する。
「いい加減にしてくれ。俺はあなたとの結婚など考えていない。大体、俺は獣臭いだろう? あなたの好みじゃないはずだ」
「そ、それは……っ」
「いいんだ。教えてくれてありがとう」
口元に笑みを浮かべたケインの目は笑っていなかった。
(やはり獣発言に気分を害されていたのですね)
ティファリーはポッポたちを優しく抱きしめ直してそう思った。
「ち、違うんです、私はっ!」
ノーリーは何とか挽回しようとしたが、聞き入れてもらえなかった。
複数人のメイドに引きずられるようにして、ノーリーは部屋から追い出された。
ソファに足を組んで座っているケインに対し、ティファリーたちは扉の前に立っている状態だ。
王族の許可がないと座れないのかと思ったケインが促す。
「ようやく静かになったな。まあ、座ってくれ。……俺の家じゃないけど」
「ケイン殿下、娘がご迷惑をおかけしただけでなく、お見苦しい場面をお見せしてしまい、誠に申し訳ございませんでした」
ノウンが厳しい表情で謝罪すると、横に並んでいるティファリーたちも、彼に倣い、ケインに向かって深々と頭を下げた。
ケインは少し考える素振りを見せたが、手を横に振る。
「気にしなくていい。娘といってもいい大人だ。あの年齢の相手に親の責任だ、家族の責任だなんて責めるつもりはない」
「ありがたいお言葉ではございますが……」
頭を上げろと言われていないのに、勝手に上げるわけにはいかない。
ポッポたちはケインの膝の上に移っていたが、居心地が悪いのか、頭を下げたままのティファリーの所へ飛んだ。
ポッポはティファリーの後頭部に、ポポーポは背中の上に乗って「「ホッホロー」」とご機嫌そうに鳴いた。
(うううう。体勢が……体勢が辛いです!)
ポッポたちの体重は150グラム前後である。重たいわけではないが、後頭部に乗られると軽いとも思えない。
そこへ悪気のないポポーポが後頭部に飛び移ったため、ティファリーの体がプルプルと震え始めた。
「わ、悪い。頭を上げてくれ。それから、ポッポ、ポポーポ、戻ってこい!」
ケインに呼ばれたポッポたちは、逆らうことなく彼のもとに戻った。
「悪かった。こういう機会はあまりなくて、自然と頭を上げてくれると思ってたんだ。思い返せば、父上はちゃんとひと言声をかけていたな」
「とんでもないことでございます。悪いのは私たちのほうですから」
ノウンはそう答えたあと、頭を上げたティファリーたちにソファに座るよう促した。
四人が座ったところで、待機していたメイドがお茶を淹れて出ていった。
フレーバーティーの甘い香りに誘われ、ポッポたちがテーブルの上に降りようとするが、ケインに捕まえられて失敗に終わる。
「「ホッホロー!」」と二羽が抗議をするように声を上げたが、ケインは無視して話を始める。
「今日、訪ねてきたのはティファリー嬢とノーリー氏の話をするためだ」
「……私にどんなお話でしょうか」
緊張した面持ちで、ティファリーはケインに尋ねた。
「イトメニア公爵は、ノーリー氏と伯爵令息の浮気について、そんな事実はなかったと報告されたようだが、実際は違う。ティファリー嬢の言う通り、彼らは浮気をしていた」
「「「そんな!」」」
ケインからの報告に、ティファリーの父と兄二人は驚いた声を上げた。
(どうして殿下が、ノーリーお姉様とゲッティのことを調べてくれたのでしょう)
不思議に思ったティファリーから尋ねられる前に、ケインは答える。
「ノーリー氏の元夫のウノユ侯爵から、ティファリー嬢を助けてあげてほしいと頼まれた。ティファリー嬢にはポッポたちの借りがある。婚約破棄がしたいのなら、俺も手を貸そう」
ありがたい申し出ではあったが、突然の展開に付いていけず、ティファリーは詳しい説明を求めたのだった。




