12 姉の勘違い ②
応接室にはイトメニア公爵領内で著名の画家が描いた風景画が飾られている。
景観地として有名な草原と丘が描かれており、青空の下、白い鳥が二羽飛んでいる。
これはティファリーが気に入って、父に購入してもらったものだった。
そんなこともあり、ノーリーはこの絵があまり好きではなかった。
ワインレッド色の4人がけのソファが向かい合わせに二つ。その間には黒のローテーブルが置かれている。
カーペットは汚れが目立ちにくい黒色だ。そのため、部屋の中は少し重い印象を受ける。
ソファに座らず、絵を鑑賞しているケインに、ノーリーが話しかける。
「とても素朴な絵ですわよね」
「ああ。俺は好きだな」
一瞬、がっかりしたような表情を見せたノーリーだったが、そんなことでめげるタイプではない。
「お座りになってお待ちください。すぐに父も来ると思いますわ」
「……ありがとう」
ケインは眉間に皺を寄せながら、ノーリーに礼を言った。そして、促された場所――上座の位置に当たる場所に腰掛けた。
(殿下の横に座るわけにはいきませんし、私はソファに座っておいてもいいのでしょうか)
ティファリーはそう考えて、ソファを見つめる。
自分と兄二人、あとは父だけでソファは定員オーバーになってしまう。
(お母様はご挨拶だけで終わるでしょうし、あとはノーリーお姉様がどこに座るかですわね)
ケインから預かったポッポたちを抱きしめながら、ティファリーは悩む。
すると、ケインがティファリーに話しかけた。
「ティファリー嬢、ポッポたちは重いだろう。座ったらどうだ」
「お気遣いいただきありがとうございます」
お言葉に甘えて座ろうとするティファリーをノーリーが制止する。
「待ちなさい、ティファリー。これから私たちは大事な話をするの」
「「ホッホロー」」
「あなたには関係のないことだから」
「「ホッホロー」」
タイミングを見計らっているかのように、ノーリーが話している途中で、ポッポたちが鳴く。
吹き出しそうになったティファリーは、ノーリーに引きつる顔が見られないように俯いた。
ノーリーは話の腰を折られることに怒り始める。
「さっきから、ホッホローって何なの?」
「「ホーッ! ホーッ!」」
「んふっ」
突然、鳴き方を変えたため、ティファリーはついに声を出して笑いそうになった。しかし、何とか笑い声を最小限にとどめ、必死に心の中を無にした。
「……ティファリー、私たちは大事な話をするの。邪魔をするなら出ていってちょうだい」
怒りを何とか抑えながら、ノーリーがティファリーに指示した時、ケインが口を開く。
「俺はティファリー嬢に用があるんだ。出ていかれては困る。出ていくのなら君が出ていけ」
「……はい? わ、私がですか?」
ノーリーは目を丸くし、自分を指差して聞き返した。
「失礼を承知で聞くが、どうして俺が君……失礼。あなたに用事があると思ったんだ?」
心底理由がわからないと言わんばかりに、ケインは眉間の皺を深くした。
「ケイン殿下には婚約者がいらっしゃいません! ですから、婚約者を探しに我が家に来られたのだと思ったのです!」
ノーリーは自分の胸に右手を当てて訴える。
「ケイン殿下、誤解しないでいただきたいのです! 私は一度離婚した身ではございますが、離婚原因はウノユ侯爵です!」
ケインは婚約者を探しに来たなどとひと言も言っていない。それなのに、どうして話を進めるのか、ケインの護衛騎士も含めて、皆不思議そうにしている。
(ノーリーお姉様が少し可哀想になってきましたね)
苦笑したティファリーを見たノーリーは、被害者ぶることにした。
「ケイン殿下、聞いてくださいませ。ティファリーは私のことが嫌いなんです! いつもこうやって私のことを馬鹿にして……。ですから私、少しでも早く、この家から逃げ出したいんです」
「あの、ノーリーお姉様、少しよろしいでしょうか」
「……何かしら」
先程から話している最中に腰を折られて、ノーリーは怒りを抑えるのに必死だった。
そのため、呆れ顔になっているケインのことも気づかない。
「ノーリーお姉様はケイン殿下が婚約者を探していると思っていらっしゃるようですが、そうではありません」
「……は?」
「「ホッホロー!」」
ノーリーには二羽から笑われているように感じ、顔を覆ってその場に座り込んだ。
「酷い、酷いわ! こうやって私をいじめて何が楽しいの!?」
「お姉様は何をおっしゃっているんです?」
ティファリーはため息を吐いて、ノーリーを見下ろした。すると、ノーリーは両手を離し涙を流し始める。
「殿下がここにお見えになるのは、私と婚約したいからだと、ティファリーに言われたんです。いつもこんな風に、彼女は嘘をついて私を陥れようとするんです!」
(自分を守るための嘘なら、息をするように思いつくんですね!)
「お姉様、いい加減にしてください! あなたが勝手に」
ティファリーは言い返そうとしたが、途中でノックの音に阻まれた。
口を閉じて背後を振り返る。
外開きの扉を開けて、中に入って来たのはノウンだった。後ろにはソーラドたちもいる。
三人共、厳しい表情をして、ノーリーを見つめていた。
「お、お父様! 酷いんです! ティファリーが嘘をついて、殿下の前で恥をかかせようとしたんです!」
ノーリーは立ち上がり、ノウンに訴えかけたが無駄だった。
「ノーリー、お前の声は廊下にまで聞こえていた。ティファリーは嘘なんてついていない。殿下がお見えになると聞いてダイニングルームを飛び出していったのは自分自身だろう」
「あ……えっと」
ノウンはその場にいなかったが、後からその話を聞いていた。
厳しい目を向けられたノーリーは、言い返すことができず、ぱくぱくと口を動かすことしかできなかった。




