第34話「覚えている」
異世界。
湿った空気。
石を積む音。
水が流れる音。
今日も。
風呂は少しずつ形になっていく。
「そこ」
短く声が飛ぶ。
石を置く。
考えるより先に。
体が動く。
「……」
まただ。
最近。
それが増えた。
図面を見なくても。
言われる前でも。
手が、勝手に動く。
「違う」
足が止まる。
見下ろく。
置こうとしていた場所。
「悪い」
石を持ち直す。
今度は隣へ置く。
ぴたりと収まる。
「惜しかったな」
近くの男が笑う。
「……そうか?」
「前なら、そこだった」
「前?」
男は首を傾げる。
「……いや」
それだけ言って。
また作業へ戻っていく。
「……」
前。
また、その言葉だ。
俺より。
周りの方が。
昔の俺を知っている。
そんな気がした。
「知ってるんだろ」
気付けば口にしていた。
フードは答えない。
石を積み続ける。
「……俺のこと」
少しだけ。
手が止まる。
「知らない方がいい」
静かな声だった。
前みたいに。
突き放すような言い方じゃない。
でも。
教える気もない。
「あっそ」
それ以上は聞かなかった。
聞いても。
答えない。
そんな気がした。
作業を終え。
歩き出す。
「……」
気付けば。
手を握っていた。
「……」
ゆっくり開く。
そこには何もない。
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