第33話「残る」
異世界。
湿った空気。
石を積む音。
水が流れる音。
昨日と変わらない風呂。
そう思った。
でも。
違う。
静かすぎる。
誰も話していない。
俺が来たことに気付くと、村人達は少しだけ視線を向けて、また作業へ戻った。
「遅い」
フードが言う。
「悪い」
反射で返す。
自分でも驚くくらい自然だった。
木材を持ち上げる。
石を運ぶ。
考えない。
何も。
昨日のことも。
約束のことも。
全部。
忘れる。
そのつもりだった。
「そこ」
声が飛ぶ。
「右だ」
「ああ」
直す。
違和感があった。
言われる前から。
そうした方がいいと分かっていた。
「……」
まただ。
体だけが覚えている。
「おい」
横から村人が声を掛けてきた。
「昨日言ってた場所だ」
振り向く。
昨日。
広げた方がいいと言った場所。
「どうだ?」
確かに。
昨日より広くなっていた。
「ありがとう」
思わず口にする。
村人は少し笑って。
「礼ならいらん」
そう言って去っていく。
「……」
自然と息を吐いていた。
「っ……」
胸が痛む。
また。
あの感覚。
約束。
思い出すな。
考えるな。
石を置く。
木を運ぶ。
水を見る。
作業だけ見る。
「避けても」
一瞬、
そう聞こえた。
振り向く。
誰もいない。
村人達は働いている。
フードも動いている。
「……気のせいか」
そう思った瞬間。
ぴちゃん。
水が鳴る。
「避けても」
今度ははっきり聞こえた。
足が止まる。
水面。
誰もいない。
だが。
揺れている。
「残る」
ぞわり。
背中が冷えた。
「どうした」
フードの声。
「……いや」
目を逸らす。
「何でもない」
嘘だった。
何でもなくない。
避けたはずだ。
考えないようにした。
なのに。
残っている。
「……」
作業を再開する。
手は動く。
だが。
耳だけが。
水を探していた。
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