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第35話「掴む」
異世界。
湿った空気。
石を積む音。
水が流れる音。
変わらない。
……
そう思えなくなっていた。
「……」
石を持ち上げる。
重い。
昨日までと同じ。
そのはずだった。
「そこ」
声が飛ぶ。
「ああ」
石を運ぶ。
置く。
その瞬間。
手が止まる。
「……?」
まただ。
理由はない。
でも。
動かない。
手だけが。
「どうした」
「……いや」
石を置こうとした。
その瞬間。
指先に。
柔らかい感触。
反射的に。
握る。
「待ってよ!」
――途切れる。
景色は見えない。
顔も分からない。
でも。
確かに。
俺は。
その手を掴んでいた。
「おい」
声が戻る。
我に返る。
目の前には。
未完成の風呂。
手の中には。
石だけ。
「……今の」
息が浅くなる。
思い出した。
……違う。
思い出しかけた。
作業を終え。
帰ろうと歩き出す。
無意識に。
手を見る。
もう。
握ってはいない。
でも。
温もりだけは、
消えなかった。
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