第31話「約束」
同じ文字だった。
『約束』
紙の端。
小さく書かれた文字。
見間違いじゃない。
黒い水面に浮かんでいた写真。
あれと同じだった。
「どうした」
声がする。
聞こえている。
だが。
返事はしなかった。
できなかった。
視線が離れない。
『約束』
たった二文字。
それだけなのに。
妙に重かった。
「おい」
もう一度呼ばれる。
そこでようやく。
顔を上げた。
「なんでもない」
嘘だった。
だが。
追及はされなかった。
図面の話は続いている。
誰が描いたのか。
いつ描いたのか。
なぜ描いたのか。
答えは出ない。
俺も分からない。
ただ。
紙を見るたびに。
胸の奥が落ち着かなかった。
解散したのは昼過ぎだった。
図面は保管することになった。
俺は宿へ戻る。
途中。
何度も振り返った。
図面を。
いや。
違う。
あの文字を。
『約束』
頭から離れない。
部屋に戻る。
扉を閉める。
静かになる。
なのに。
落ち着かない。
夢を拾った。
その結果が。
あの図面だった。
なら。
約束を拾ったら。
どう変わる。
考えたくなかった。
だが。
考えてしまう。
知らないものじゃない。
そんな気はしていた。
むしろ逆だ。
知っている。
知っているはずだ。
だから怖い。
どくん。
鼓動が鳴る。
窓の外を見る。
夕暮れだった。
赤い空。
長い影。
ふと。
思う。
約束って。
誰との約束だ。
家族か。
友人か。
恋人か。
分からない。
だが。
一つだけ。
守れなかった。
そんな気がした。
「……っ」
胸が痛む。
理由は分からない。
思い出したわけでもない。
なのに。
苦しかった。
その夜。
なかなか眠れなかった。
目を閉じる。
黒い水面。
浮かぶ写真。
『約束』
前より近い。
いや。
前より。
はっきり見えた。
読んでいただきありがとうございます。
少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。




