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風呂で死にかけると、同じ異世界に呼ばれるんだが〜未完成の風呂を何度も作ってる気がする〜  作者: Studio No.13


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第29話「線」

 図面が増えてる。

 その言葉だけが。

 頭の中で繰り返される。

「……何言ってるんだ」

 立ち上がる。

「知らん」

 即答だった。

「だが騒ぎになってる」

 聞き慣れた声。

 少しだけ苛立っている。

 珍しい。

「来い」


 風呂場。

 人が集まっていた。

 村人。

 手伝い。

 いつもいる連中。

 全員。

 同じ場所を見ている。

「いたぞ」

 誰かが言った。

 一斉に視線が向く。

「……なんだよ」

 嫌な予感しかしない。

 人の間を抜ける。

 そして。

 固まった。

「は?」

 図面だった。

 見覚えのある紙。

 だが。

 違う。

 増えている。

 一枚。

 もう一枚。

 いや。

 違う。

 まだある。

 机の上に広がっていた。

「これ……」

 昨日はなかった。

 いや。

 今までなかった。

 それだけは分かる。

「誰が描いた」

 思わず呟く。

 返事はない。

 代わりに。

「それを聞きたいのはこっちだ」

 後ろから声。

「全部お前の字だぞ」

 鼓動が速くなる。

「……は?」

 紙を見る。

 文字。

 数字。

 線。

 確かに。

 見覚えがある。

 ある気がする。

「そんなはず……」

 ない。

 そう言いたかった。

 だが。

 言えなかった。

 紙を見た瞬間。

 頭の奥が熱くなる。

 ここ。

 違う。

 もっと曲げる。

 こっち。

 広すぎる。

 無駄だ。

 そんな考えが。

 勝手に浮かぶ。

「っ」

 慌てて目を逸らす。

 なのに。

 消えない。

「どうした」

「……いや」

 答えられない。

 分からない。

 本当に分からない。

 一枚の紙を取る。

 線が引かれている。

 複雑に。

 何重にも。

 だが。

 不思議だった。

 理解できる。

 初めて見るはずなのに。

 意味が分かる。

「ここ」

 気付けば口が動いていた。

「この壁いらない」

 静かになる。

 全員。

 俺を見る。

「ここ削れば」

 指が動く。

「湯の流れが変わる」

 誰も喋らない。

 俺も。

 何を言っているのか分からない。

「それで」

 言葉が止まらない。

「こっちに回せる」

 沈黙。

 そして。

「……本当だ」

 誰かが呟く。

「気付かなかった」

「いや待て」

「こっちも変わるぞ」

 ざわつき始める。

 俺だけが。

 置いていかれる。

 知らない。

 本当に知らない。

 なのに。

 分かる。

 頭じゃない。

 もっと奥。

 体が覚えている。

 そんな感覚だった。

 その時。

 どくん。

 鼓動が鳴る。

「っ」

 一瞬だけ。

 視界が揺れた。

 黒い水。

 浮かぶ写真。

『約束』

 文字が見える。

 前より。

 はっきり。

「おい」

 声で戻る。

 風呂場。

 図面。

 人。

 全部戻る。

 だが。

 胸の奥には。

 まだ。

 黒い水面が残っていた。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。

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