第27話「流れ込んだもの」
指先が触れた。
『夢』
その文字に。
触れた瞬間。
世界が反転する。
「――っ!」
落ちる。
黒い水の中。
違う。
沈んでいるのは俺じゃない。
誰かだ。
……なのに。
なぜか目が離せなかった。
息が荒い。
手にあかぎれ。
爪が割れている。
指先は血で汚れていた。
泥だらけだ。
それでも。
そいつは止まらない。
何かを作っている。
必死に。
必死に。
必死に。
「違う」
声が聞こえた。
「まだ違う」
震える声。
悔しそうな声。
それでも。
手は止まらない。
壊れる。
作る。
壊れる。
また作る。
何度も。
何度も。
何度も。
その感情が。
流れ込んでくる。
「……っ」
胸が痛い。
苦しい。
でも。
悲しくない。
諦めていないからだ。
失敗しているのに。
まだ終わっていないと思っている。
その感覚を。
俺は知っていた。
知っていたはずなのに。
いつ捨てたのか。
思い出せなかった。
景色が変わる。
知らない空。
知らない街。
知らない建物。
誰かが笑っている。
その中心に。
そいつがいた。
嬉しそうに。
誇らしそうに。
子供みたいに。
笑っていた。
「できた」
声が震える。
「やっと」
心臓が鳴る。
ドクン。
その瞬間。
全部が崩れた。
景色が割れる。
笑顔が砕ける。
声が消える。
「待て!」
思わず叫ぶ。
だが。
届かない。
伸ばした手の先で。
最後に。
声だけが残った。
『まだ終わってない』
ドクン。
心臓が跳ねた。
次の瞬間。
視界が戻る。
黒い水面。
忘れた場所。
子供。
巨大な目。
全部。
元通り。
「……はぁ」
荒い呼吸。
額から汗が落ちる。
「見た?」
子供が聞く。
答えられない。
何を見たのか。
上手く言葉にできなかった。
ただ。
一つだけ。
分かることがある。
胸の奥が。
熱かった。
ずっと前に。
捨てたはずなのに。
今は。
確かに。
そこにあった。
「なんなんだよ……」
呟く。
すると。
子供は少しだけ笑った。
「忘れてたもの」
それだけ言った。
そして。
黒い水面の奥。
何かが動く。
ちゃぷん。
写真が流れた。
『約束』
今度は。
そっちが近づいてきていた。
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