第26話「拾うもの」
巨大な目が笑った。
その瞬間。
水面が大きく揺れる。
ざぶん。
浮いていた写真が流れる。
ノートが沈む。
鍵が回るように回転する。
ゲーム機が遠ざかる。
「っ!」
思わず手を伸ばした。
だが。
どれにも届かない。
「一つ」
子供が言った。
「……は?」
「最初は一つ」
水面を見つめたまま。
静かに。
「全部は無理」
意味が分からない。
「なんでだよ」
「重いから」
子供は即答した。
「捨てたものは重い」
ぞくり。
背筋が冷える。
「意味分かんねぇよ」
「分かるよ」
子供が言う。
「お前だから」
沈黙。
ちゃぷん。
写真が近くを流れる。
裏側。
黒い字。
『約束』
胸が少しだけ痛んだ。
誰との約束だったか。
思い出せない。
でも。
なぜか。
破った気がした。
視線を逸らす。
今度はノート。
『夢』
その文字を見た瞬間。
頭痛が走る。
知らない教室。
知らない机。
知らない未来。
一瞬だけ。
何かが見えた。
だが。
すぐ消える。
「……っ」
思わず額を押さえた。
「無理に見なくていい」
子供が言う。
「壊れる」
その言葉に。
男の声が重なった気がした。
――見るな。
――触るな。
――戻れなくなる。
初めて気付く。
あいつは。
ずっと止めていた。
底から。
記憶から。
全部。
「なんでだ」
呟く。
「なんで止める」
子供は答えない。
代わりに。
鍵を指差した。
『友達』
その文字を見た瞬間。
胸の奥が妙に静かだった。
痛くない。
苦しくない。
何も感じない。
それが逆に怖かった。
「……覚えてない」
「そうじゃない」
子供が首を振る。
「感じないんだ」
どくん。
心臓が鳴る。
「慣れたから」
水面が揺れる。
巨大な目が見ている。
ずっと。
こちらを。
「選べ」
子供が言う。
「一つ」
写真。
ノート。
鍵。
ゲーム機。
四つがゆっくり回る。
どれも。
自分だった。
どれも。
自分じゃない気もした。
そして。
なぜか。
俺の手は。
ノートへ伸びていた。
『夢』
指先が触れる。
その瞬間。
世界が反転した。
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