表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風呂で死にかけると、同じ異世界に呼ばれるんだが〜未完成の風呂を何度も作ってる気がする〜  作者: Studio No.13


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/35

第25話「捨てたもの」

「なんで忘れたの?」

 子供が言った。

 びしょ濡れのまま。

 俺の肩を掴んでいる。

「……」

 言葉が出ない。

 顔は見えない。

 なのに。

 分かる。

 俺だった。

 昔の俺。

 そんな気がした。

「なんで」

 子供がもう一度言う。

「忘れたの?」

「知らねぇよ」

 思わず返す。

「覚えてねぇんだから」

 その瞬間。

 子供の手に力が入った。

「嘘だ」

 空気が冷える。

「……は?」

「忘れたんじゃない」

 静かな声。

 泣いていたはずなのに。

 今は泣いていない。

「捨てたんだ」

 頭の奥がざわつく。

 どくん。

 心臓が鳴る。

「何を」

 聞いてしまう。

 聞きたくなかったのに。

「いっぱい」

 子供が言う。

 そして。

 周囲を指差した。

 水面。

 そこに浮いている。

 写真。

 鍵。

 ノート。

 ゲーム機。

 傘。

 無数の物。

「全部」

「……」

「要らないって」

 言葉を失う。

「そんなわけ」

「あるよ」

 即答だった。

 水面が揺れる。

 ちゃぷん。

 ちゃぷん。

「覚えてないだけ」

 子供が言う。

「ここに来る人、みんなそう」

 ぞわり。

「みんな?」

「最初は忘れる」

 ぴちゃん。

 どこかで水が落ちる。

「次に捨てる」

 ぴちゃん。

「最後に無くす」

 意味が分からない。

 でも。

 なぜか怖かった。

「違いがあるのか」

「ある」

 子供は頷く。

「忘れるのは事故」

「捨てるのは自分」

 頭が痛い。

 聞いたことがない。

 なのに。

 知っている気がする。

「無くすのは?」

 子供は答えない。

 代わりに。

 黒い水面を見る。

「無くしたら」

 静かな声。

「もう思い出せない」

 風が吹く。

 いや。

 違う。

 風じゃない。

 何かが動いた。

 水の下。

 黒い水面の奥。

 巨大な影。

「おっ……」

 喉が詰まる。

 見た。

 一瞬だけ。

 巨大な目。

 さっきの。

 穴の奥にいたもの。

 今度は。

 水の下にいる。

「……なんなんだ」

 思わず呟く。

 子供は振り返らない。

「拾うもの」

 意味が分からない。

「は?」

「忘れたものを」

 ちゃぷん。

 子供の足元で波紋が広がる。

「拾うもの」

 嫌な予感。

 頭の奥がざわつく。

「拾ったらどうなる」

 沈黙。

 数秒。

 そして。

 子供がゆっくり振り返る。

 初めて。

 顔が見えた。

「戻ってくる」

 俺だった。

 小さい頃の俺。

 泣きそうな顔。

 震える唇。

「全部」

 その瞬間。

 周囲の写真が浮き上がった。

 いや。

 写真だけじゃない。

 ノート。

 鍵。

 傘。

 ゲーム機。

 全部。

 宙に浮く。

「っ!?」

 思わず後ずさる。

 そして。

 気づく。

 裏側。

 全部に文字があった。

 黒い文字。

 汚い字。

 震えた字。

 一つ目。

 写真。

『約束』

 二つ目。

 ノート。

『夢』

 三つ目。

 鍵。

『友達』

 四つ目。

 ゲーム機。

『楽しかったこと』

 息が止まる。

 全部。

 物じゃない。

 意味だ。

 記憶だ。

 感情だ。

「なんだよ……これ」

 声が震える。

 子供は答える。

「お前が捨てたもの」

 その瞬間。

 黒い水面の下。

 巨大な目が開いた。

 そして。

 初めて。

 笑った。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ