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風呂で死にかけると、同じ異世界に呼ばれるんだが〜未完成の風呂を何度も作ってる気がする〜  作者: Studio No.13


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23/35

第23話「伸びる手」

 無数の手が伸びた。

「っ!」

 反射的に後ずさる。

 黒い穴。

 その奥。

 水の中から。

 何十本もの腕が這い出してくる。

 人間の手。

 だが。

 妙に長い。

 水に浸かり続けたみたいに、

 白くふやけている。

 そして。

 全部。

 俺の手だった。

「……は?」

 言葉を失う。

 指。

 傷跡。

 爪。

 見覚えがある。

 あるはずがないのに。

 見覚えがあった。

「下がれ!!」

 男が怒鳴る。

 同時に。

 最初の手が床を掴んだ。

 べちゃ。

 嫌な音。

 次。

 また一本。

 また一本。

 屋上のコンクリートを掴む。

「来るぞ!」

 男が俺を引っ張る。

 その瞬間。

 ずるり。

 穴の奥から。

 何かが這い出てきた。

「っ……!」

 喉が鳴る。

 人だった。

 黒いフード。

 濡れた服。

 赤い目。

 見慣れた姿。

 だが。

 違う。

 首が曲がっている。

 腕も。

 足も。

 全部。

 折れたまま。

 それでも動いていた。

「……壊した」

 そいつが言う。

 俺の声だった。

「風呂を」

 ごぼり。

 また一人。

 今度は。

 胸が潰れていた。

「飛ばした」

 俺の声。

 ごぼり。

 また一人。

 顔の半分がなかった。

「完成させた」

 俺の声。

 穴の奥から。

 次々と出てくる。

 失敗した者達。

 辿り着いた者達。

 どちらなのか分からない。

 ただ。

 共通していた。

 全員。

 壊れていた。

「……」

 男が歯を食いしばる。

「見るな」

「……」

「見続けるな」

 声が硬い。

 今までにないくらい。

 焦っていた。

「なんでだよ」

 思わず言う。

「なんで」

 赤い目。

 壊れた体。

 俺の声。

 全部。

 俺に見える。

「なんで俺なんだよ」

 静寂。

 風が吹く。

 フード達は答えない。

 代わりに。

 一番最初のフードが言った。

「お前だからだ」

 頭の奥がざわつく。

「意味分かんねぇよ」

「分かる」

「分からねぇよ!」

「分かる」

 同じ声。

 同じ口調。

 まるで。

 俺自身と話しているみたいだった。

「思い出せば」

 ぴちゃん。

 どこかで水が落ちる。

「全部」

 その瞬間。

 視界が揺れた。

「っ……!」

 頭痛。

 知らない記憶。

 また流れ込んでくる。

 浴槽。

 完成している。

 湯気。

 静かな水面。

 誰かが笑っている。

 その向こう。

 フード。

 赤い目。

 そして。

 俺。

 浴槽の縁に立っていた。

 自分で。

 自分を見ている。

「——順番を守れ」

 声。

 俺だった。

「っ!!」

 現実に戻る。

 呼吸が乱れる。

「はぁ……っ」

 男の顔色が変わる。

「何見た」

「……」

「何見た!」

 また同じ質問。

 でも。

 今度は違う。

「……俺」

 言葉が漏れる。

「俺がいた」

 フード達が静かになる。

「風呂の前に」

 頭が痛い。

 それでも。

 口が止まらない。

「順番を守れって」

 言った。

 沈黙。

 数秒。

 そして。

 最初のフードが。

 ゆっくり頷いた。

「そうだ」

 赤い目。

 まっすぐ俺を見る。

「やっと思い出した」

 背筋が冷える。

「……何を」

 フードは答えない。

 代わりに。

 黒い穴を指差した。

「入口だ」

 ごぼり。

 水音。

「何の」

「忘れた場所の」

 空気が凍る。

 男が顔を上げる。

「言うな」

 低い声。

 警告。

 だが。

 フードは止まらない。

「お前が捨てたものが」

 赤い目が細くなる。

「全部そこにある」

 次の瞬間。

 黒い穴の奥で。

 何かが開いた。

 巨大な目だった。

読んでいただきありがとうございます。

少しでも続きが気になったら、フォローや評価いただけると嬉しいです。

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