第22話「辿り着いた者」
大量の水音が響く。
ごぼり。
ごぼり。
黒い穴の奥。
何かが動いていた。
「……辿り着いた?」
思わず呟く。
フードは頷いた。
「そうだ」
俺の声。
だが。
妙に落ち着いている。
まるで。
ずっと前に諦めた人間みたいな声だった。
「お前らは」
男が睨む。
「底に落ちた」
「違う」
即答だった。
「お前がそう思ってるだけだ」
「黙れ」
「まだ分からないのか?」
フードが笑う。
口元だけ。
歪に。
「何回繰り返した」
男の顔色が変わる。
「……」
「何回失敗した」
「黙れ」
「何回忘れた」
「黙れ!!」
怒鳴り声。
屋上に響く。
初めてだった。
男がここまで感情を出すの。
フード達は笑わない。
ただ。
静かに見ている。
哀れむように。
「……何なんだよ」
気づけば言っていた。
誰に向けたのか分からない。
「お前ら」
赤い目。
濡れた服。
俺と同じ声。
「何なんだよ」
フード達は答えない。
代わりに。
一人が前へ出る。
左腕のないフード。
袖だけが揺れている。
「失敗した」
そいつが言う。
「壊した」
次。
額が割れたフード。
「飛ばした」
次。
片目が潰れたフード。
「完成させた」
ぞわり。
背筋が冷える。
完成。
その言葉。
ずっと引っかかっている。
「完成したら戻れるんじゃねぇのか」
言葉が漏れる。
フード達が静かになる。
そして。
全員。
同時に俺を見た。
嫌な沈黙。
「……なんだよ」
誰も答えない。
代わりに。
左腕のないフードが言う。
「戻った」
「……」
「何度も」
頭の奥がざわつく。
「何度も?」
「何度も」
「戻る」
ごぼり。
黒い穴の奥。
水が鳴る。
「また作る」
「また戻る」
「また忘れる」
一人。
また一人。
順番に喋り始める。
「また近づく」
「また忘れる」
「また来る」
「また忘れる」
俺の声。
俺の声。
俺の声。
全部。
俺の声。
「やめろ」
男が低く言う。
フード達は止まらない。
「また作る」
「また近づく」
「また見る」
「また来る」
頭痛。
知らないはずなのに。
聞いたことがある。
そんな感覚。
「やめろ!!」
男が叫ぶ。
その瞬間。
全員が黙った。
静寂。
風だけが吹く。
そして。
一番最初のフードが言う。
「じゃあ聞く」
赤い目。
まっすぐ俺を見る。
「お前は何番目だ?」
またそれだ。
何番目。
順番。
その時。
頭の奥で。
何かが弾けた。
知らない数字。
知らない記憶。
知らない声。
それなのに。
口が勝手に動く。
「……さんじゅ」
「言うな!!」
男が俺を突き飛ばした。
次の瞬間。
黒い穴の奥から。
無数の手が伸びた。
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