第20話「同じ声」
「見つけた」
その声は。
俺の声だった。
「っ……」
喉が鳴る。
給水タンクの前。
フードの男が立っている。
赤い目。
濡れた服。
口元だけが笑っていた。
「……お前」
言葉が出ない。
俺だった。
違う。
俺じゃない。
なのに。
声だけは完全に同じだった。
「見るな」
隣で男が言う。
低い声。
だが。
遅かった。
フードが顔を上げる。
じっと。
俺を見る。
「やっと来た」
ぞわり。
背筋が冷える。
「……誰だ」
思わず聞いていた。
男が舌打ちする。
「聞くなっつったろ」
フードは答えない。
ただ。
ゆっくり首を傾げた。
不自然な角度。
骨がないみたいに。
「何番目だ?」
またそれだ。
階段の下の奴も言った。
何番目。
順番。
そればかりだ。
「知らねぇよ」
吐き捨てる。
すると。
フードが止まった。
「……知らない?」
初めて表情が変わる。
困惑。
いや。
違う。
理解できないものを見る顔。
「知らないのか」
小さく呟く。
その瞬間。
男が前に出た。
「下がれ」
「……」
「お前も」
フードを睨む。
「近づくな」
二人が向き合う。
妙だった。
初対面じゃない。
そんな空気。
「またお前か」
フードが言う。
男は答えない。
「何回目だ?」
「黙れ」
「覚えてないのか?」
「黙れ」
空気が張り詰める。
俺だけが置いていかれる。
「おい」
思わず叫ぶ。
「何の話してんだよ」
二人とも見ない。
まるで。
俺がいないみたいに。
「なぁ!」
その時。
ぴちゃん。
水音。
全員が止まる。
給水タンクの裏。
真っ暗な影。
そこから。
また足音が聞こえた。
びちゃ。
びちゃ。
ゆっくり。
近づいてくる。
「……は?」
フードがいる。
目の前に。
なのに。
また別の足音。
びちゃ。
びちゃ。
影の奥から。
もう一人。
出てきた。
黒いフード。
赤い目。
濡れた服。
そして。
また。
俺の声。
「遅い」
空気が凍る。
俺は言葉を失う。
一人じゃない。
その時。
びちゃ。
また足音。
今度は別の方向。
給水タンクの反対側。
さらにもう一人。
「……来たか」
同じ声。
同じ赤い目。
同じフード。
違うのは。
傷。
歩き方。
背丈。
少しずつだけ。
違う。
「嘘だろ……」
言葉を失う。
男の顔色が変わる。
喉が渇く。
三人。
いや。
違う。
給水タンクの裏。
暗闇の中。
まだいる。
何人も。
何十人も。
赤い目だけが見えていた。
男の顔色が変わる。
「下がれ」
今までで一番強い声。
「見るな」
だが。
もう見えてしまった。
暗闇の奥。
無数のフード。
全員が。
俺を見ている。
そして。
一斉に口を開いた。
『来い』
その声は。
全部。
俺だった。
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