第19話「何番目だ」
ガン!!!
屋上扉が吹き飛んだ。
「っ!」
反射的に腕で顔を庇う。
金属片が床を跳ねる。
ガラン。
ガラン。
夜風が吹き込む。
「……は?」
誰もいない。
屋上だった。
フェンス。
給水タンク。
薄暗い照明。
普通の屋上。
なのに。
ぴちゃん。
水音だけが響いている。
「なんだよ……」
男も固まっていた。
その時。
『何番目だ』
下から声。
びちゃ。
一段。
また一段。
上がってくる。
「クソ……!」
男が俺の腕を掴む。
「屋上出るぞ」
「は?」
「いいから来い」
引っ張られる。
屋上へ飛び出す。
夜風が強い。
だが。
違和感。
「……おい」
思わず立ち止まる。
「なんだ」
「ここ」
おかしい。
屋上の床。
濡れていた。
雨なんか降ってない。
なのに。
黒い水の跡。
一本。
いや。
二本。
三本。
何本も。
何かを引きずったような跡。
全部。
給水タンクの裏へ続いている。
「見るな」
男が即座に言う。
「……」
「絶対見るな」
でも。
見てしまう。
そこに。
数字があった。
床。
コンクリート。
黒い指でなぞったみたいな文字。
1
3
7
11
19
23
31
順番に並んでいる。
「……なんだこれ」
答えはない。
ただ。
最後だけ。
数字が潰れていた。
何かで何度も消したみたいに。
ぐちゃぐちゃに。
そして。
その横。
新しく書かれた文字。
まだ濡れている。
『?』
背筋が冷える。
「おい」
男の声が震える。
「見るなって言ったろ」
「これ何だよ」
返事がない。
男は数字を見ていた。
顔色が悪い。
「知ってるのか」
「……」
「おい」
男が唇を噛む。
そして。
「順番だ」
小さく言った。
「……は?」
「失敗した順番」
頭が真っ白になる。
夜風が吹く。
ぴちゃん。
また水音。
今度は近い。
給水タンクの裏。
黒い水が落ちる音。
「……失敗って」
「聞くな」
男が遮る。
「まだ聞くな」
その言葉。
どこかで聞いた気がした。
フードも言っていた。
順番を守れ。
まだ知るな。
見るな。
近づくな。
全部同じだ。
「なんでだよ」
思わず声が出る。
「なんでみんな隠す」
男は答えない。
ただ。
給水タンクの裏を見ていた。
まるで。
何かが出てくるのを待つみたいに。
そして。
ぴちゃん。
水音が止まる。
静寂。
数秒。
その直後。
給水タンクの裏から。
誰かが出てきた。
「——っ」
喉が鳴る。
フードだった。
黒い服。
濡れた足。
俯いた顔。
だが。
違う。
いつものフードじゃない。
背が少し低い。
歩き方も違う。
そして。
ゆっくり顔を上げる。
赤い目。
口元だけが笑っていた。
「見つけた」
その声は。
俺の声だった。
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