うつ ろ
乎代子は木造建築の墓志波ハイツ――だった廃墟化したアパートの一室で、隅で鎖に繋がれているかつてのサリエリだったモノへ、餌をやる。
どうやら人肉の他にハンバーガーは食べられるらしく、それを毎回粗末な出来ではあるけれど作っては与えている。
(――ラフも消えちゃったし、この子が忘れ形見になるのかな)
そんな理由で彼女を養っている自分がいる。
ラファスティはあの季節外れの台風から、行方不明になっていた。その前から精神的に不安定に見えたし、目の前にいる元上司がこうなってからはアパートに来る回数も減っていたのだ。
発狂して行方不明になったとしてもなんら不思議はない。
(もう一回会えたら、ビンタかましてやる)
焼肉屋に行くのを楽しみにしていたのを居なくなってから知るとは。それに、自分自身にとっては親しい人物でもあったのに。
勝手に消えてしまって。
「あ、いでえーっ! 指だよ指っ!」
ボンヤリしていると、ヤツが指をガブリと捕食しようと――いや、食べた。
「ああっ、乎代子の指をぉ! なんて事すんだ! 野良犬っ〜!」
お菓子をむさぼり食っていた無意味名 パビャ子が咄嗟に飛びかかり、ギザギザのノコギリの如し歯が並んだ口をこじ開けた。
「い、いてえ〜! 指取れなくてよかった」
ザックリとやられて、乎代子は他の指で止血しつつ顔をしかめる。
「これ、巻いてあげるから」
珍しくパビャ子がかいがいしく絆創膏ではなく……赤い布を懐からだして、指に巻き付けようとしてきた。
「うわっ! やめろ! 得体のしれない布を巻くな!」
「これはね、何でも治る魔法の布だから〜」
彼女の身体にも赤い布は巻かれている。が、それは化け物限定じゃないのか?
「いだいっで! キツく巻くなっつてんの!」
指と手を巻かれ、そこはかとなく奇妙な臭いがする怪しげな布に恐怖する。
(あれ、これ、デジャヴだ)
いつだかこうやって、赤い布を傷に巻いてもらった記憶が蘇る。だが洞太 乎代子にはそんな経験はない。
「じゃ〜ん! これで大丈夫っ、大事にしてね」
そのセリフも聞いた事がある。
「ねえ」
そういいかけて口を閉ざす。禍々しい赤色が有無を言わせず、生理的な嫌悪を抱かせていたが――対象的に向こうは嬉しそうだった。
「何で赤い布なの」
「それはね、無意味名 パビャ子さんが大好きな色と布だからだよ」
「ふ~ん……」




