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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜 ☆かんたんの枕☆  作者: 犬冠 雲映子
しし虫はここにはななきししらははかしみにしづがとにゆきてなきをれ

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にん シき き きけん ぶんきてん

 洞太 乎代子は清掃バイトの通勤途中に必ず、スーツ姿の男性が石仏……あるいは板碑の前に佇み、割れ、接着された部位をガン見しているのを目撃していた。

 確かあの石仏は青面金剛(しょうめんこんごう)という類いだった気がする。乎代子が暮らしている町にもあるし、庚申塔として関東にも多い。

 だが、その庚申塔を調べている様子でも、手を合わせ拝んでいる様子でもない。変哲もない街並み。

 異様な光景に誰も気に留めない。

(あれはああいう類いだよな。目を合わせちゃだめだ)

 あれ、とはこの世の者でない部類だ。見つかったらダメだ。

(あの場所、出るってバイト先の人たちも噂してたし……)

 庚申塔も化け物や人でない者が現れやすい場所で、必然的に残っているのだろう。お互いの境界のために。

 じゃあ、アレは何だかますます良くない存在なんでないか。

 乎代子はそそくさと足を早めた。





 帰り道。まだあの男性がジイッと庚申塔を眺めている。今までにないパターンにギョッとしたが、逃げてしまおう。

 なにせ認識されたら――

 男がふりかえった。

「あ」

 声を出して足を止めてしまう。汗が吹き出して、夜闇に光る双眸に既視感を覚えた。

 尾先ヶ(おさきが) 間蔵(まくら)。無意味名 パビャ子。そうしてリクルートスーツを着た集団。

「ねえ、この青面金剛、可愛そうだと思わないかい? 花も手向けられず、へし折られて勝手な都合で直されて、それでもなおここに居る」

 青年、まだ若さがある。

「俺は人間が嫌いだね。あんたは?」

「え、いやぁ、そこまで好きじゃない……です」

「ふうん。そうだもんな。ソッチから足を踏み入れて、俺を認識したんだもんな?」

「あ、ああ、まあ」

 そうらしい、乎代子は逃げるか否かを背後を確かめつつ考える。離れれば追ってこない部類が多いが、ヤツはどうだろう?

(詰んでる?)

「人間側に逃げようなんざ、笑かすなよ。別にお前を食事の的にした訳じゃない、上司の命令でね……どんなヤツか見に来たんだ」

「尾先ヶ 間蔵の知り合い?」

「ああ、大ざっぱにいえば」

 またか。だが少し窮地から逸れた。「マクラ(野干オンナ)なんて信用しない方がいい。あんな多多邪の宮の操り人形、そばに置いといたら不幸を呼び寄せるだけさ。俺のようにな」

 ケラケラ笑うと、握手を求められる。

「遠慮しとく……」

「そうでなければな。容易に化け物の世界に来られたら困る」

「試しに来たんですか?」

「それもあるね。まー、また会う事は確定しているが……尾先ヶ 間蔵がいる限り、いろんなのが寄ってくる。ソレは忠告しておくぜ」

 ニタニタしていたが、嘘ではないのだろう。

 お先真っ暗だから、な。と彼はさらに笑って、歩き出した。

(いや、でも。どうやって境界線を認識すんだよ。出遭うしかわかんねーって)

 背広を見送りつつも、ポカンとするしかなかった。

「ヤバい方向に迷い込んだっぽい……自分……」

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