にん シき き きけん ぶんきてん
洞太 乎代子は清掃バイトの通勤途中に必ず、スーツ姿の男性が石仏……あるいは板碑の前に佇み、割れ、接着された部位をガン見しているのを目撃していた。
確かあの石仏は青面金剛という類いだった気がする。乎代子が暮らしている町にもあるし、庚申塔として関東にも多い。
だが、その庚申塔を調べている様子でも、手を合わせ拝んでいる様子でもない。変哲もない街並み。
異様な光景に誰も気に留めない。
(あれはああいう類いだよな。目を合わせちゃだめだ)
あれ、とはこの世の者でない部類だ。見つかったらダメだ。
(あの場所、出るってバイト先の人たちも噂してたし……)
庚申塔も化け物や人でない者が現れやすい場所で、必然的に残っているのだろう。お互いの境界のために。
じゃあ、アレは何だかますます良くない存在なんでないか。
乎代子はそそくさと足を早めた。
帰り道。まだあの男性がジイッと庚申塔を眺めている。今までにないパターンにギョッとしたが、逃げてしまおう。
なにせ認識されたら――
男がふりかえった。
「あ」
声を出して足を止めてしまう。汗が吹き出して、夜闇に光る双眸に既視感を覚えた。
尾先ヶ 間蔵。無意味名 パビャ子。そうしてリクルートスーツを着た集団。
「ねえ、この青面金剛、可愛そうだと思わないかい? 花も手向けられず、へし折られて勝手な都合で直されて、それでもなおここに居る」
青年、まだ若さがある。
「俺は人間が嫌いだね。あんたは?」
「え、いやぁ、そこまで好きじゃない……です」
「ふうん。そうだもんな。ソッチから足を踏み入れて、俺を認識したんだもんな?」
「あ、ああ、まあ」
そうらしい、乎代子は逃げるか否かを背後を確かめつつ考える。離れれば追ってこない部類が多いが、ヤツはどうだろう?
(詰んでる?)
「人間側に逃げようなんざ、笑かすなよ。別にお前を食事の的にした訳じゃない、上司の命令でね……どんなヤツか見に来たんだ」
「尾先ヶ 間蔵の知り合い?」
「ああ、大ざっぱにいえば」
またか。だが少し窮地から逸れた。「マクラなんて信用しない方がいい。あんな多多邪の宮の操り人形、そばに置いといたら不幸を呼び寄せるだけさ。俺のようにな」
ケラケラ笑うと、握手を求められる。
「遠慮しとく……」
「そうでなければな。容易に化け物の世界に来られたら困る」
「試しに来たんですか?」
「それもあるね。まー、また会う事は確定しているが……尾先ヶ 間蔵がいる限り、いろんなのが寄ってくる。ソレは忠告しておくぜ」
ニタニタしていたが、嘘ではないのだろう。
お先真っ暗だから、な。と彼はさらに笑って、歩き出した。
(いや、でも。どうやって境界線を認識すんだよ。出遭うしかわかんねーって)
背広を見送りつつも、ポカンとするしかなかった。
「ヤバい方向に迷い込んだっぽい……自分……」




