ぜんこう
「じゃ〜〜ん! パーラムさんにたくさんご飯を差し入れです」
廃墟化したアパートの一室。いきなり出現したかと思えば、たくさんの食料を抱えている。彼女――尾先ヶ 間蔵が自費で揃えたとは到底思えないが。
乎代子は胡散臭さすぎて、黙るしかなかった。
「あ! 盗みを働いたと思ってるでしょ。違いますよ〜!! マクラちゃんの力で、反転させた正当な入手ですから」
「反転?」
「マクラちゃんはですね~。お金持ちと貧乏な人の運命を逆転できるんです。幸せ者には不幸を、不幸な者には幸いを。善行ですよね?」
「あ、あー、そうかも、ね」
半ば強制的に賛同させられるような圧に、不格好な笑いを浮かべるしかない。ならばあれは誰かからもらい受けた食べ物なのか?
まるで昔話か、蘇民将来のような話だ。
「私にはおそれ多いかなー……」
「パーラムさん……なんて慈悲深い。マクラちゃん感激です。欲深くない、その崇高な志し! リスペクトさせていたはだきます!」
(いや、食ったら呪われそうだろ)
他人の不幸は蜜の味。その蜜をこぞって食べるのはハイリスクハイリターンな気がする。
「あ、でもマクラちゃんがせっかく持ってきてくれたんだからパビャ子と一緒に食べるよ」
「え? あの真似っ子オンナとですか??」
「マクラちゃんは何か食べれる?」
「あー、この中だとないですね」
ムッとして渋々了承してくれたが、こちらは猛獣を相手にしているようなものだ。ヒヤヒヤして汗が出る。
「私は良いから、マクラちゃんは自分の事に集中しなよ? ほら、忙しいんじゃないの」
「いやいや。パーラムさんがパーラムさんである限りマクラちゃんは奉仕し続けますよ」
吐き気がした。自分は気を抜けばやはりこの世の者でない部類の捕食対象になりうるのだ。
「そう」
「多多邪の宮さんが居なくなって、ちょびっと寂しいんですよね。本音」
「え、そうなんだ」
「帰って来るまでパーラムさんを守るって決めたんです。だから忙しくなんてないンです」
ニッコリと彼女は笑った。人間らしい笑顔であった。
(相容れない。この世の者でない部類とは)
危うい娘だ。このヒトは。
お互いのエネミーライン、生活圏が見えていない。いつか絶対に痛い目に遭う。
だがか弱い立場の己には忠告なぞ、できやしない。
「早く帰って来るといいね」
それだけ祈って、乎代子はたくさんのインスタント食品を見た。




