いかい ちかてつ にて
「あー、悟られなくて良かったんじゃないですかー?」
イスいリル・カー・わグナーが安値の缶コーヒーを片手に、そんな言葉を言う。
「え。あの幽霊社員と知り合い? ワグナー、おまいさん、意外だぞっ」
「セクハラ? モラハラ? キショいです」
ミハルは肘鉄をくらい、呻くが彼女はウームと曖昧な返答をよこした。
「有名ではありますね。隠し神じゃないんですか、縁戚みたいな種族でー」
「いや、アイツも偽天使じゃないんかよ」
伝書鳩とは偽天使の集いすらないのか? 有象無象の隠れ蓑になっていないか?
「ミハルさんが言える事じゃなくないすか? 別に咎められもしないなら、いても良いじゃないですか」
缶コーヒーを飲みきると、広大な駅のホームを眺める。人っ子ひとりいない。それもそのはず、隠し神が創り出した異界だからである。
古い年代のコンクリートが目立つ、無機質な空間。ホコリ臭くて空気が重たい。ひんやりとした風がどこからか吹いていて、地下鉄特有の心地よさがあった。
「これから私は根の堅洲国に行きますけど、何か買ってきてほしいものあります?」
「ないよ。いつもありがとうな」
列車がたまに駅に来て、根の堅洲国という場所へ通じている。どういう理屈かは謎ではあるが……それはこの世の者でない部類では『普通』なのだ。
「バティとかいう、密教系のキツネ集団に因縁があるとしたら……ミハルさんはその人との交流をやめるべきですねえ」
「……ほうか」
金の切れ目が縁の切れ目、というけれども関係とはあっけなく終わるのも承知だ。子供ではない。
(人間ごっこも潮時なんかな)
ちょっとした楽しみがなくなるのか。寂しい気もしたが――
「正直すぎるんですよ、ミハルさん。もうちょい悪いヒトになりましょーよ」
「えっ?」
「止めといた方が良いとか言ったけど、こすいヤツで通して、遊ぶものもありなんじゃないすか? ほら、スリリングで楽しいでしょう」
アハハ、と彼女はあっけらかんとして笑う。
「だから私、こんな風になっちゃったんですけどねー」
「イスいリルちゃんの良い所だと思うよ。そういうの」




