やかん しょうれんげんりん
無意味名 パビャ子はウーウーとけたたましい火事のサイレンを耳に、夜の町をうろついていた。理由は空腹。
食べるものがないか、目ざとく探していると――フラフラと子供が歩いているのを目撃した。場に似つかわしくないというか、着の身着のまま、夢遊病の如く裸足で歩いていたからだ。
火事の方向からきた、ような気がしてパビャ子は首を傾げる。
「こんこん。きやんきやん! こっちだよ」
囁くような声がして、子供の前ら辺にリクルートスーツ姿の女性が浮いているのが、今になって突然目視できた。
「あっ! 悪さしてんじゃん」
「ギャッ?! アンタ誰? 仲間?!」
駆け寄ると、操られていた子が尋常でない状態になっているのにかすかに動揺する。白目で泡を吹き、酸欠を起こしている。
「別に良いじゃなぁーい! 新しいオモチャ見つけたんだもん」
プイッと拗ねられ、さすがに嫌な気持ちになった。
「変態趣味は良いけど物持ちよさそうじゃないね。オモチャってのは長く使うんだよ」
「へ、変態だって?! アタシが?! し、失敬な」
「小児性愛者!」
「――そこの二人とも、夜中に喧嘩は止めなさい。みっともないでしょう」
どこからか、冷静沈着、と文字通りな声色がして路地の方を見た。修行僧の法衣を纏う尼さん、いや、リクルートスーツがあるが……ともかくこの世のものでない類いが現れた。
「師匠! なんとかして下さいよー、知らないヤツにイチャモンつけられてるんですう」
「師匠?」
「あら……貴方、私たちと同胞だと思ってたけれども違うようね。良かったら私が拾ってあげましょうか?」
尼さん(?)は数珠をジャラリと鳴らし、手を合わせた。
「エッ、乎代子たちがいるから大丈夫。貴方は? 私は無意味名 パビャ子」
「私は夜間 青蓮華幻林 ともうします。よろしく」
「や、やかん? はーい」
頭が悪いので思考を停止した。あちらは悪さをしていた弟子を叱らずに手招くと歩き出す。子供もつられて夜闇へ消えていった。
「貴方は修行が足りませんね」
「えーっ」
「……あの人たち、何だったんだろ。えーっと名前はやかん、忘れちゃった」




