ゆめ が あいまい に なる
パーラム・イターは薄暗い世界でひたすらに舟の渡しをしていた。ふとこれは現実ではない、と悟り……ああ、まだ未練を残しているのか、と自嘲する。
全てをぶち壊し、逃げてきたはずなのに。まだ。
不思議と家族を殺めた八重岳 イヨ子が浮かぶ。規模は違えど逃げたのは同じだ。
あの娘には妹がいた。確か――
「お姉さん。逃げるなんて最低ね」
舟に居ないはずの実の妹が憎々しい口を利く。「せっかく与えられた優遇を捨ててまで、ほんっと贅沢な姉だわ。肉親から外したいくらい」
褐色肌の、異国の服を纏ったあの日のままの妹は睥睨の双眸をしている。
「そこまで私が悪いか? 私は、何も知らない子供の時に人攫いにあって――!」
言いかけて吐き気がする思い出を飲み込む。
アレには永遠に伝わらないのだろう。なにせ『夢幻』の産物なのだから。
「そこまで私を憎悪の対象にするのならば刺すなり、殴るなりしろよ。それができないのか? 弱者めが」
妹は老齢さを宿したまま、ピクリとも動かない。そこがまた苛ついて、パーラムは飛びかかり殴り倒した。
「消えろ! 私の中から消えやがれっ!」
「――それが、貴方の答えなんですか」
殴られていた老婆がいきなり、イヨ子の妹に変貌する。血を流し顔が変形しているのにもかかわらず。
「妹さんは後悔していると思いますよ。まだ此岸にいるだろうし、あんな言葉を言わなければ」
「黙れっ! 人間風情に何が分かんだよっ! クソ! クソクソ!!」
激情に身を任せていると、笑い声が聞こえ我に返る。何かがおかしい。笑っているのは己の声色である。
「あ……?」
乎代子はハッと手を止めて、自分自身が何をしているか悟る。夢の中ではパーラムで。
「乎代子、ストレスたまってたんだね〜」
無意味名 パビャ子がニッコリとしてそんな事をいい、全身の力が抜ける。なんてひどい事をしていたのだろう。
彼女を殴り倒していたんだ。
「ごめん、ごめん……あたし、おかしくなっちゃったんだ」
「大丈夫だよ」
「嫌だよ。私は、嫌だ」
真夜中は静まり返り、幸いにもクスやサリエリの残骸は眠っていた。乎代子はパビャ子にすがりつくようにもたれかかる。
「パビャ子さんは傷つかないから、なんでそんなんになるの??」
「……。いつか、分かるよ。多分」




