すいめんか
美麗之前は災禍が起きた日から少し時間が経ったのを、人間の感覚に置き換えて知る。
桜が咲いた。春が来て、野鳥がうららかにさえずり、勝手に季節が進んでいく。
被災した巨大な川べりの地域は忙しく、今も泥を撤去したりボランティアを募っているという。
あの面倒な始祖の第一眷属はまだどこかで生きているらしく、自分たちは相変わらず存在していた。美麗之前の門下であるマクラに無断で遺言めいた願いを託して、消えた。
「そこまでしてあのじゃじゃ馬が良いのかしらぁ」
パーラムの残骸たちを監視しろ、またしてや良からぬ方向へいかないようサポートしろ、と。
「どこまでも自分勝手なヤツだわ」
吐き捨てると、隣にヒトの気配がした。
「こんにちは。美麗之前さま」
「貴方は確か、……誰の門下だったっけ。わすれちゃった」
「なんと酷い。亜別さまの門下、安土でございますよ。たまに伝令係として会いに来ていたのに」
彼はニヤニヤとしているが、目は笑っていない。半月に歪め胡散臭さが滲み出ているが──確か、きちんと亜別からの伝言を届けに来ている。
根は真面目なのか、亜別が恐ろしいのか。
彼女にはどちらでも良かった。一瞥すると鼻を鳴らして、リクルートスーツ姿の青年が何を言い出すのかを待つ。
「亜別さまがパーラム・イターの残骸どもを見張るために安土めを遣わす事になりました。これはあの厄介者の願いではなく、独断でございます。タタタノミヤがどう干渉してくるか分からないため、またあのような厄災が起こらぬよう」
「なるほどね。亜別らしいわねえ」
懐が広い素振りをしているくせに猜疑心の塊であるあのオンナが、始祖の直属を信用しているとは思えなかったので安心する。
それに彼女の役割は我々の影響や存在を隠す事。パーラムは出すぎた真似をしていた輩だったから、派遣するのは何もおかしくはない。
「分かりました。貴方は嫌じゃないの」
「拒否権はありませんし、それに、あのムカつく野干オンナをしかり付けられるのなら」
「ちょっとお、私の門下の子よ〜?」
「個人的な感情をお許しください」




