げーぶる だっちばーん
「ゲーブル・ダッチバーン。その案件の資料はそっちにしまえ」
ギャビー・リッター改め、ゲーブル・ダッチバーンは小さく返事をすると壊滅的になったビルのデスクの紙束を収納ケースに入れていく。
アリー・シダルヴァという上司がやらかした事件もあったが、それよりも季節外れのスーパー台風により少なからずビルも被害を受けた。地震があったのかオフィスは荒れ放題で、暴風で窓ガラスも割れていた。
ダッチバーンはあの自然災害がこの世の者でないのを存じている。
だからと言ってどうした、とも思う。
「ラファティ・アスケラの穴埋めをしたい。よければラファエルの枠に入らないか?」
「い、いや、今まで良いです……。雑務があってるんで」
「ガブリエルは雑務ではない、メッセンジャーとしての役割がある! 蔑ろにするな!」
「いやぁ……知りませんよ、そんなの」
伝書鳩に入隊させられた偽のギャビー・リッター、いや、今もガブリエル枠に所属させられている。残念ながらその宗派はよく知らず、アリーに叱られてばかりだ。
前のように認識阻害を行使したいが、それよりもお叱りが怖い。
この女上官のような輩と何を考えているか分からぬ秘書に見張られているのが嫌で仕方なかった。
「ああ、確かに伝書鳩は厳密には天使ではない。偽物だ。誠の、天使のような存在は既にいるが、我々は人間にとって天使でありたい」
「高い志しですね」
ミニスカさえやめさせてくれれば何でも良かった。今は。
「ミハル・ミザーンはどこにいる?」
「さあ。喫煙所じゃないですか? さっきまで掃除していましたけど」
「はあ、あのボンクラは」
ミハルの眷属にされてからは、ダッチバーンは彼に逆らえない。扉隠しの車座とかいう集団になったのだ。
隠し神とやらは耳にしていたがミハル・ミザーンがそうだとは意外なものだ。
(ヒトは見かけによらず……てやつか)
「角笛を吹く前に、先にやられてしまったな」
「角笛?」
「黙示録のラッパ吹きを知らないか? リセットする前にラッパ吹きがそれぞれ厄災を呼ぶ、そう伝えられている。皮肉なものだ。あヤツらに角笛を握られてしまったとは」
あヤツら──あの得体の知れない、リクルートスーツ集団の事か。
「……皆、そこまでして吹きたいンですかね。物騒な輩ですよ」
アリーは虚をつかれた顔をした。
ダッチバーンは一応、宇宙、いや、世を動かすための施設に務めていたのだ。この世には現状を壊してやりたいヤツらが溢れているのは承知だが、それがヒトの性なのかもしれない。
「──ともかく、ミハル・ミザーンを呼んできて欲しい」
「分かりましたよ」
雑に返事をして、彼女はオフィスを出た。




