ごしっくたい
春と夏、行き来する天候。前線の争いが日本列島をしっちちゃかめっちゃかにした。
無意味名 パビャ子は温かい風、冷たい風が1日の半分に吹くのを体感しながらも空腹に耐えて――はいなかった。
「なあにこれ」
アスファルトに春というゴシック体の文字が落ちている。
生きている訳ではないのかピクリとも動かない。
パビャ子はしゃがみ込み、春を手にとった。ゴシック体の塊だった。
「いただきま〜〜す」
とりあえずお腹が空いていたので、食べてみた。味はなかった。
残念?
するといきなり暖かい風が吹く。春らしい陽気はどこかへいき、夏を連想する空気に満たされる。
ビュウビュウと電線が南風にあおられる。
あれは……春だった?
「変なの」
パビャ子は廃墟化したアパート、墓志波ハイツへ歩を進めると今度は5月というゴシック体が落ちているではないか。
「ご飯だ!」
「まって、食べないで! それ、食べちゃうとひどく暑くなっちゃうから」
通りかかった仙人のような雰囲気の老人に止められた。よく分からないが多少なりとも、なぜの文字が見えている人はいるみたいだ。
「その代わりになんだが、これをあげよう」
「これは?」
「平和」
「へいわ?」
平和、のゴシック体。老人は欠けた歯を見せてニコリと笑った。
「ありがとう! 大事に、とっておいて食べるね」
「ははは! お前さんはおもしろい! 食べなさい! おもしろい!」
仙人は大笑いしながら歩いていった。それを見送ると、手元にある平和を眺めた。
――もしも食べたらどうなるのだろうか?




