かわ の いじわる は
無意味名 パビャ子はさざめく草藪に己が立っているのを見た。
嫌に風の強い夜だった。ビュウビュウと唸る風と鉄塔の電線が揺れている。
空の曇りと比例して、辺りは暗い。その中に自分自身が佇み、こちらを見ている。
お互い見つめ合う。鏡合わせ。きっとアレは存在しないもの。
声をかけても反応しないし、強風に暴れる色素の薄い茶髪の合間から覗く瞳は無を宿していた。
「私、何か迷ってるのかな」
小さく呟いて頭の中を整理整頓しようとする――が、パビャ子には無理な話だった。馬鹿な脳みそは答えなど出せない。
「大丈夫だよ、迷っていても」
あちら側から勝手に言ってきた。「……」
「私は迷っていても大丈夫だよ」
虚ろな目で彼女は言う。そうか、虚ろだ。自分自身には何もない。
でもそれは洞太 乎代子だから、自分はそうではいけないのだ。
「大丈夫、か」
自問自答。川べりは異界と隣り合わせ。居ないものが見えてもありえなくもない。
「何もなくても、私は私を演じていくよ」
無の無意味名 パビャ子はそう伝えて、消えていった。風がひときわ、強烈に吹いてすべてをかき消したからだ。
「川は意地悪だなぁ……」
拗ねてみせて風に任せ夜をさまよう事にした。風来坊、そうしていたいから。
風が強いです。




