はるのおわり なつのはじまり
ある夜の事。
4月にしては季節の流れが早い気がした。夏のジーッと鳴く、あの物悲しくなる虫が草藪に潜んでいる。もう春はおしまいのようだ。
コンビニや飲食店、古本屋や靴屋が勢揃いの大型駐車場の片隅で二人は下見に来ていた。ド田舎とも言い難いが、やはり田舎だ。
「安土 奏汰郎。歯、あるんでしょう? なら乎代子たちにあげなさないな 」
「ええっ、俺は小間使いじゃないんですけど」
美麗之前に命じられ、安土 奏汰郎は肩をすくめた。彼の主食は歯であるが……中には貴重なものもある。
「あまり良くないものが接触しているものぉ。歯を魔除けにするのは貴方の仕事でしょ」
「する場合は……恩義があるヤツだけですよ。それに、良くないモノって何スカ」
紙タバコを吸いながら、彼は夜の空を眺めていた。黄砂のせいか霞んで星すら見えない。
「アテクシたちを丸呑みできる輩よ。知っているはずよ」
「あ、え? 日本に来たんですか? アレ」
「来た、というよりは人界へ降りてきた、という方が正しいわあ」
アイシュワリヤを丸呑みする程の力を持つ――異神。姿は変幻自在と聞いたが……。
「俺の魔除けじゃあ、効かないんじゃないですか? アレは」
「アテクシたちを押さえつけるには強いけれども、人間に対しては富を与えたりするから多少なりとも防げる」
「そうッスかねえ。なんだっけ、日本では大黒さまって呼ばれている……」
「ような、モノよ。大黒天ではない、あくまでも当てはめられている存在。アテクシたちのようにね♡」
ストックしている歯を眺め、安土はたまにいたずらの如く人間を救う所業へ……罪悪感はない。悪い者が来る前に特別な力が宿った歯を渡し、そうして噂を拡散させ、力を増す。
どちらか悪で、どちらが善かなんて、この世の者でない部類には関係ない。
「多多邪の宮はパーラムがすき、なんですかねえ」
「さーね。アイツにそんなモノが分かると思う?」
「いやぁ、俺にも分からねえです」




