さぶ りみなる
人面獣の隠る舞は物事を風のように伝える役割を担う。
器用に現し世と異界を行き来して、宛先の者へ言葉を伝える。他に人間でいう郵便局のような職業をやっている種族はいる。
だが隠る舞は少し違う。
虫の知らせ。負の側面が強い。
しかし知らせを届けては人間を激昂して殺めてしまう度に苦しむのは、自らしかいないのではないのでは、と彼女は恨む。
こんな姿にした人間どもが憎い。
けれども自分自身が化け物に染まる気はない。
中途半端な心理をひた隠し、彼女は風に乗り宛先へ向かう。
虫の知らせ。虫ではないが、ささいな前触れ。
それさえ伝えられれば――
来てくれたんだ。
そう囁かれて、振り返ると嫌な気がして体毛が逆立つ。人間が佇んではいるが、外見だけで中身は異質な者が占めている……そう、不気味な気配。
「前触れ、ありがとう。わえは前触れをふりまきたいんだ。たくさんお金は払うよ?」
「お金? 私に、この人喰い化け物にお金が必要だと?」
「お金。通貨。対価。たくさんの言い方があるだろう? わえはたくさん持っているから、汝にはお得だと思うよお」
見た目は四十代後半の男性だが……。
中身は誰だ。
「前触れを振りまいて欲しい。わえがまた、この世界にこれるように」
「そういう事か」
「簡単なの。前触れをばらまいておけば、みんなに刷り込まれていくの。知らない間にね」
わえは多多邪の宮。知らないと思うけれど、ね。
彼はそういった。対価は充分だった。だが、その生命はどこから?
まさか乗っ取った度に人の魂を略奪している? まるで実を収穫するかの如く。
(あまり関わりたくない)
多多邪の宮はニヤニヤとしていたが、憑依された人間は白目を向いてヨダレをダラダラと垂らしていた。
そそくさと契約して虫の知らせをばらまくとしよう。
誰もわからないような、ジワジワと無意識に侵食するような。
「たちの悪いヤツだ」
自分自身はまだマシなのだ、と安心している部分がある。これも刷り込まれているのだろうか。




