いわし の あたま
「お師匠さま。お久しぶりです!」
ワラシは偶然にも路地を歩いていた我がお師匠へ声をかけた。彼女は坊僧の衣をまとい、ジャラリと数珠を鳴らした。
お久しぶり、と言ってもつい数週間前にもあったが。
「今日も元気でなにより。人の世には慣れてきましたか?」
「まだちょっと分からないけどだいぶ!」
「ならば私のお手伝いをしてもらいましょうか」
「えー、あ! はあい」
悪野狗 嗤使は読み書きを尼の格好をした師匠から教わった。人間の世界のルールも。
なので逆らえはしない。
「今日は大人数の人を救いますので、騒がないように」
「えっ、師匠さま。ついに開祖したのですか?! お祝いさせてください!」
「まさか。他人の空似を利用しているだけです」
もの静かな師匠に皮肉めいた笑いが浮かぶ。なあんだ、とワラシは残念がる。
どうやらある人間の拝み屋だと信じて引かないらしい。ならば救ってしまわおう、と彼女は判断を下した。
拝み屋が全能であると信じてやまない人間たちに、師匠は嗤う。そうこうしていると悪いキツネに食われるぞ、と。
「最上級の極楽を見せてあげましょう」
「いいなー」
「貴方は修行が足りません」
「え、今何でそれ?!」
二人はこじんまりとした公民館のような、古びた建物についた。
「助けていただけるのですね!!」
「待っておりました。どうか、あの子の病を治しください」
「朗虎さまの助けが必要なんです!」
(ろうこさま? それが人間の拝み屋? へえ〜〜、人間のくせに)
どうやらワラシは見えていないのか、それとも眼中にないのか完全無視であった。
「では、貴方たちに取り憑いている悪魔、悪霊を祓います」
十人の人が深々と頭を下げ、手を合わせる。本職の僧侶さながらお経を読む姿は、幼い少女には憧れだった。
きっと生前、本当にお坊さんだったのだろう。
すると人間たちの視界には何かありがたいものが現れたのか、どよめきが起きる。歓喜し、涙を流す者や浮かれはしゃぐ者、様々だ。
「では、帰りましょう。数日経てば食べ頃になりますから」
「はぁーい! あの……ワラシちゃんもお経よみたいな〜」
「じゃあまずはコソコソ隠してはサボっている漢字ドリルを毎日しなさい」
「えー、バレてた……」
いわしの頭も信心から。
暑くなり、体調が崩れがちです……。
夏が怖い。
追記
名前を間違えていました。朗虎です。




