かわ に すむ もの
無意味名 パビャ子は――とある珍しい石畳で有名な渓谷で岩に寝そべり、ボンヤリと空を眺めていた。上空でゆっくりと綿雲が流れていくのを無心で傍受している、と、どこからか呼び声がする。
「おーい、おーい」
人が呼んでいる。川下りの人かと思ってみたが、周りは誰も居ない。
どこにいるのだろう?
「誰ー?」
体を起こして、周囲を見回してみた。すると川の中で美麗な衣を着た貴族風の男が佇んでいるではないか。
「おーい」
溺れている訳ではなさそうだが、執拗に呼んでいるので仕方なしに川へダイブした。ヒンヤリとした川の温度が心地良い。
そうして無理やり男の方へ行くと、川魚が慌てて逃げていくのを見た。つかまえて食べようかとも悩んだが、今はそうしている時ではない。
「なあに? ご飯でも持ってるの? 一緒に川魚とる?」
「ぬう、お主は人ではなかったか。驚いた」
男はこちらを見るなり、残念そうに呟いた。「残念じゃ。人をとって食おうとしたのに」
「ふ~ん。川魚なら一緒に食べられるよ!」
パビャ子は川魚を探そうとしたが、狩衣姿のこの世の者でない部類は苦笑するばかりであった。
「私は川の精だ。無礼を働いた事を詫びよう。お主にはコレをやる」
「これは?」
麻布の巾着袋。中にはジャラジャラと音がするものが入っている。
「大切にすると良い。そうすればお主の縁が良い方向に向かうだろう」
「ありがとう? じゃあ、パビャ子さんもコレ! 綺麗な石! あげる」
形の滑らな石を渡すと、川の精と名乗った貴族は笑う。
「童子のような子だ! 気に入った、良いだろう。大事にする」
「うん、私も大事にするね」
パビャ子は帰り道、懐に巾着袋を入れて歩いた。そうして不意にコンビニにたくさんの仏花が売られているのを目にして、思い出す。
彼岸入りしたのか。お彼岸の時期は人の世が曖昧になりやすい。
もしあの場にパビャ子でなく人間がいたら、水難事故が起きていたのかもしれない。
人ならざる者は美しい女性や男性に化けて、人を惑わすと良く聞きます。
化けキツネの話が有名だな、と私は思いますが、あるネット怪談で美麗な貴族風の人がこちらを呼んでいる……が、祖父にあれは人でないから連れて行かれてしまうぞ、と、言い聞かされる話が何とも妖しく優美な雰囲気を纏っていて好きで、参考にしました。




