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公爵令嬢は悲運の王子様を救いたい【改稿版】  作者: 田鶴


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18.アマーリエの懇願

 どんなことが身に起きようと諜報員になりたいとアマーリエがいくら懇願しても、ルードヴィヒは中々首を縦に振ってくれなかった。


 革命派と繋がっている侍従の言いなりになっている王妃の息がかかる令嬢を次代の王妃にするわけにはいかない。そうルートヴィヒは思っているに違いないから、アマーリエがジークフリートと結婚できなくなる可能性は避けたいのだろう。


 でも、諜報活動のために性的関係を結ぶような羽目に娘がなってほしくないという父親としての情もきっとあるはずだ。


 この時代に目覚めてから数年間、アマーリエはルートヴィヒの娘として過ごしてきたから、彼が家族を愛しているのにも気付いている。そんなルートヴィヒの複雑な気持ちが分かるだけにアマーリエも切ないが、ジークフリートの命には代えられない。


「お父様、ごめんなさい。家族を悲しませたくはないんです。でも何があっても殿下を失いたくない。お父様が許して下さらないのなら、私独自に活動します。もちろん、そちらの方が危険であろう事は承知の上です」


 ルードヴィヒは、悲壮な覚悟を決めている娘を見つめ、大きなため息をついた。


「ハァ……お前も頑固だな……仕方ない、認めよう」

「お父様! ありがとう!」


 アマーリエは飛び上がるように立ち上がって向かい側のソファに座っている父に抱き着いた。ジークフリートもルードヴィヒに諜報部隊入隊を拒否され、自分だけで活動するとルートヴィヒに宣言した。そのジークフリートが今、どのように諜報活動をしているかルードヴィヒも知らないわけではないが、全て耳に入るわけでもない。それよりは自分の影響下に完全に置くほうがよいと判断したまでだ。


「喜ぶのはまだ早い。男性に身体的に近づいて情報収集をする仕事はさせない」

「お父様! 私は殿下を守るためなら手段は選びません!」

「それを承知しないなら入隊させない」

「それでは独自に活動します」


 父娘はテーブルを挟んで睨み合った。


「そんな破廉恥な事をしなくても殿下を守るために情報収集はできる。必要なら他の諜報員にもさせることはできる。お前は身を守る事を一番に考えてくれ。それにお前には左腕と左肩のハンデも忘れてはならないぞ」

「他の女性にさせることを娘にはさせたくないって酷い事を言っている自覚はありますか?」

「……あるよ。でも諜報員は仕事上必要なことは何でもすると契約した上で諜報部隊に入っている。それに、お前は殿下と婚約した。本来、諜報活動をする身分ではない」

「私も諜報員になるのでしょう? それなら何でもする覚悟はできています」

「私は入隊させるとは言ったが、お前は正式な諜報員になれないだろう」


 アマーリエは、驚きのあまり、ソファから腰を浮かせた。


「どうして?! お父様は今さっき了承してくれたではありませんか! 嘘だったのですか?!」

「正式な諜報員の任命には王家の認可が必要だが、お前の入隊には正式な許可が下りるはずがない。国王陛下と王太后陛下、王太子殿下にも話は通すが、お前は非公式な諜報員になるしかないだろう。だが王太子殿下直属にしてもらえるように頼むつもりだよ」


 アマーリエは、非公式な諜報員という立場に不満を持ったが、経験がないのに自力で諜報活動をするよりはよい。それにジークフリート直属になるのは悪くないから、この条件で了承するより他になかった。


 ルートヴィヒはヘルミネ以外の王室メンバーと話した結果、ジークフリートにはかなり渋られたものの、訓練が済み次第、アマーリエはジルヴィアと共に彼専属の諜報員となることに決まった。ジルヴィアは普段侍女を務めているが、実は諜報員でもあるので、彼女がアマーリエの訓練を担当することになった。


 ジルヴィアのようにオルデンブルク公爵家一門の貴族女性が諜報員になるのは珍しい。なったとしたら、縁談相手は一門の中だけに限定される。ジルヴィアは22歳でこの時代ならとっくに結婚していておかしくない歳だが、少なくともアマーリエが嫁ぐまでは彼女に仕えたく、できれば嫁いだ後も仕え続けたいので、結婚はしなくてもいいと常々公言している。


 女性と違って、公爵家一門の男性はほとんどが諜報員の訓練を受ける。中にはジークフリート個人付きの諜報員エミールのように脱落する者もいるが、任務や訓練の内容を外に漏らさないという誓いを立てて諜報部隊から離脱する。それを破ったら家族に類が及ぶ。


 諜報部隊の訓練成果を今の仕事に生かしているエミールは、その誓いを破ったことになるが、家族は無事だ。ただ、仕え先がジークフリートだから、黙認されているだけだ。


 アマーリエが非公式な諜報員になることに決定してから数日後、彼女はジルヴィアの元で諜報員としての訓練を始めた。それは今まで貴族令嬢としてだけ育ってきたアマーリエには、想像を絶するほど厳しいものだった。

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