第19章「せんにん」 5-3 陶器の塊
そうして、定期的に訪れている、神の間へと続く大広間をその日も見渡している時だった。既に、魔術的にも物理的にもほぼほぼ元通りに修復された。
(……なるほど……ここは、緩衝空間だったか……。どのような法かは分からんが、タケマ=ミヅカ殿のところへ直接次元回廊を繋げられないようにしているのだ。大したもんだ……誰が考えたものやら)
感心してうなずいていると、突如として空間に大きなゆがみが走った。
瞬時に、再び地下神殿とリューゼン城に緊急警報が鳴り渡った。
「またか!!」
見張りの皇帝騎士が悲壮的に叫んだ。
いま、あの規模の侵攻があれば、とうてい護り切れない。
(おいおいおいおい……)
マーラルがびっくりして立ちすくみ、空間歪曲から漏れる気配というか、魔力というか……その力を読んだ。
非常に懐かしい……知っている力だった。
(ちょっとちょっと、待て待て待て待て……おい! こいつは……まさかだろ!?)
城中から皇帝騎士と特任教授が室内転送で殺到したが、数も少なければ、新人ばかりでみな動揺を隠せなかった。
しかし、皇帝は現れなかった。
偽皇帝であるングルーペテックンウゼグン(本体)もアラートに目を丸くしていたが、ゾールンの命令や指示にこの場合のことはなかったので、動くに動けなかったのだ。
もっとも、体調が一時的に戻ったといっても、もともとすこぶる悪いことはみな知っていたので、皇帝が現れないことに誰も違和感を持たなかった。
皇帝がいないのであれば、この場は新しい皇帝騎士団長が仕切ることになる。元騎士団ナンバー3だった、クープルリャモードリーンヴンという、人間でいうと三十代半ばほどの中堅の皇帝エルフだ。
「くっ来るぞ!!」
クープルリャモードリーンヴンが最前列で抜剣したが、手が細かく震えていた。無理もない。つい数か月前の襲撃では、ベテランの騎士団長は戦死、副団長は再起不能。クープルリャモードリーンヴンも手傷を追った。ストラがいなければ、負けていた。空間歪曲の大きさからして、あれほどの規模ではないだろうとは判断で来たが、あの半分以下の規模でも、いま勝てるかどうかだ。
(メシャルナー神よ……我らに御加護を!!)
今回もまた、あの英雄が……異次元魔王だという人物が都合よく出現してくれて……とも思わないでもなかったが、それは奇跡だ。前回ですら奇跡だったのだ。
その一行の最後列で、マーラルは違う意味で小刻みに震えていた。
(な……なんであいつを感じるんだ!? あ、あいつめ……まさか、異次元に消えていたのか!? それが、戻ってこようというのか!? いまさら!?)
次元波動が高まり、謎の光があふれ、急激に視界が白くなる。
「なっ……なんだ!?」
「以前と違う!」
「来たあああああ!!」
誰かがそう叫んだ時、大広間が真っ白となった。
「……!!」
マーラルは、時間が止まっている……いや、自分と相手だけが大広間より隔絶された特殊異空間にいることに気づいた。
「おいおい! なんでお前がここにいるんだ? 無楽よ!!」
久しぶりすぎて、マーラルはその独特の高い声を完全に忘れていたが、神通力・神仙力は思い出していたので、声もすぐに思い出した。
「把呂仙人!! こいつは一体全体、どういうことか説明しろ!!」
マーラルが大可九仙人と袂を分かつ約1500年前のさらに数百年前……2000年近くも前に、忽然と姿を消していた把呂仙人であった。
しかし、その姿は、マーラルの太古の記憶と異なっていた。
ひょろっと背の高い、黒い蓬髪を後ろに結んだだけの頼りなげで貧相な青年だったはずだが、いまマーラルの目の前にいるのは、いわば様々な種類の陶器の塊だった。
それらが磁石のようにくっついていたり、離れて浮遊していたりして、何やら前衛アートの様な不思議な印象を見る者に与えている。大きさは、大きくて数十センチ、小さいものは数センチの、不規則な多角形の板状のものだ。陶板というべきか、大きな陶器の破片というべきか。色は薄いグレーで、真っ白い世界にあっては保護色のようだった。
さしものマーラルも、戸惑いを隠せなかった。
「そっ、それが……お前さんの正体かね。に……人間なのか?」
「私から見たら、あんたらのほうが人間なのか? という形質と形状だ、無楽よ」
その物云いに、そういや、こういうやつだったとマーラル、嘆息した。
「悪かったよ。まあ、そうだろうさ」
「なぜ、こんなところにいるんだね」
「こっちのセリフだ!!」
思わず、マーラルが目をむいて声を荒げた。




