第332話 南へ x トレーラー始動
会議の終わりに、俺はふと気になったことをティリーゼに聞いてみることにした。
「これは仕事とは関係ないのですが騎士学校について伺ってもよろしいですか? 」
「はい、かまいませんわ 」
「私も帝立騎士学校に入ることは可能でしょうか? 」
それを聞いてリエラから何言ってんだお前…って感じの視線が向けられる。ティリーゼも少し戸惑っているようだ。
「……ええと、入ることは可能ですわ。貴族家出身者が大半を占めますが一般庶民にも開かれておりますのよ。帝国でもあまり知られていないようですが… 」
「でしたら狩人でも大丈夫ですね 」
「……そうですわね。そういえばセリアさんも元狩人でしたか…前例がありますしまったく変ではない? ですわね… 」
騎士学校に行けば機動騎士に乗ることができる。触ってみたら何かを掴めるかも知れない。そこにロボット普及の鍵があるとも限らないのだ。
《ただ乗ってみたいだけなのでは? 》
それはそう…
ただまあ、回り道になるかも知れないがそう言ったことが重要になると思っているのは本当だ。人脈を作ることが大事になることもあるだろう。今の俺は人と接する機会がなさ過ぎるように思う。
この後、二人と夕食を共にした。それが終わると直接工房に行って仕事のために必要な準備に取りかかる。
タルマンを沙漠仕様に改修することと専用トレーラーを完成させることだ。時間があまりないので亜空間工房も稼働させることにした。明日の未明には出発しなければならない。
まずはタルマンの改修から始める。
関節部を布で覆う構造にして砂が入らないようにする。多少は入っても問題なく動くがベナン沙漠はさらっさらの砂沙漠だという。大量に入り込むことが予想される。対策は必須だ。
耐久性の問題と動きを妨げないようにすること。この二つを解決することはそれなりに大変だったが無事に実用レベルまで引き上げることが出来た。
カラーリングを沙漠仕様の黄土色に変更してタルマンの改修を終える。
次に運搬車両の完成に取り組む。完成だけでなく沙漠仕様にする必要があってこちらの方が大変そうだ。
とりあえず車両を丸ごと亜空間に入れてそこで作業に取りかかる。
沙漠では車両の中を拠点として行動することになる。そのため居住性も確保しなければならない。それも俺とジュジュとリエラのさんにん分だ。
俺とジュジュは運転席で寝るとしてリエラ用のベッドが必要になる。エンジュに地球でのキャンピングカーとか長距離トラックの資料を出してもらい参考にした。
車両の前方三分の一を運転席含めて居住空間としてやりくりしていく。天井を高くして座席の上にベッドスペースを設ける。座席の下は貨物スペースにした。
上と下を繋ぐ通路を簡単な調理が出来るようにした。お湯を沸かすぐらいならここでもわけはない。これで温かいスープが飲めるだろう。ここから後部の格納庫にアクセスすることも可能だ。
構造部と内装が仕上がったので最後に塗装をする。これもタルマン同様に沙漠仕様の黄土色で塗りたくる。
塗り終わるとさりげなく帝国騎士団の紋章をちりばめていく。これがあれば多少の交通違反は免除されるという。油断は禁物だがちょっとやそっとで止められないのは安心感がある。明日は朝からだいぶ急ぐことになるから。
現場はそれなりに猶予があるみたいだけど救助は迅速にってのが基本だろう。
《安全運転でお願いします 》
まあ、可能な限り…
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夜が明ける前、完成させた運搬車両に乗り込むと工房を出発する。
途中、昨日のホテル近くに寄ると道路の脇に人影が見えた。俺の到着を待っているリエラだ。お互い時間通りに行動している。
横に止めると彼女はこれと言った躊躇なくすぐにドアを開けて車内に入ってくる。そのまま無言で助手席に着くとシートベルトを締めた。
俺はそれを確認してからゆっくりとトラックを前進させていく。
特にしゃべることもなく無言の時間が流れる。交換するべき情報は昨日のうちに全て済ませてある。今さら話し合うことはないのだがほんの少し気まずい雰囲気があった。
かと言って雑談って空気でもないな…
そもそも俺のことを危険視しているらしいリエラと何を話したら打ち解けられるかなんて皆目見当がつかない。
俺とリエラの間に挟まってジュジュが居てくれているのが救いだ。居るだけで空気が和らぐ。
走らせていき高速道路に入った。最初は周囲の車と速度を合わせて進み流れに乗る。そして、頃合いを見て仕掛けていく。
速度を上げながら車線を変更する。車体が完全に追い越し車線に入ったその時…
「いくぞ… 」
―グンッ…
一気に加速を引き上げる。
空気抵抗を減らす魔導具で空気の壁を打ち破り、水術でタービンの回転を上げていく。
―カコッ……カコッ……
加速に合わせてシフトチェンジをしていき、その都度、速度は軽快に上がる。
さらに雷術で電気モータも回している。ハイブリッドモータにより鈍重な車体はトラックと思えない速度で爆走した。
二百五十キロぐらいは出ているだろう。周囲の車の二倍以上だ。景色と一緒に後ろに流れて言ってる。まるで他の車が止まっているかのようだ。
「おっ、おいっ… こんなに飛ばして大丈夫なのか? 」
何を心配したのかリエラが忠告のような確認の声を上げた。
一体何が心配なんだろうな?
スピードそのものはリエラにとってそこまで脅威ではないように思える。本気で魔術を使えば出せないスピードじゃない。
違反とか事故に対する心配だろうか?
それはなくもないが今は非常事態だし多少の無茶はすると事前に伝えてある。そのための紋章も車体に描いている。
他のドライバーに魔力波で警告しているから俺達を妨げるようなことはしない。実際、避けてくれている。
ならなんだろう? まさか、車体が壊れないかってことか?
冗談だろう?……と、言いたいところだがわからなくもないな…
普通のトラックが出していい速度ではない。改造していなかったら到底耐えられるものではなかったたろう。
いや、ゴテゴテに改造しているからこそ不安なのか? 重そうな車体が高速を出すことで逆に無理をしていると感じるのは自然なことだと言える。
「大丈夫だ… ちゃんと設計通りに動いている 」
安心するといい…
「いや、違ッ…違わなくないか… それもあるが…まあ、いい 」
? いろいろってことか… ならしょうがない
いいと言うならいいだろう… 説明が面倒だ…
「今は非常時。細かいことはいいだろう… 」
「あ、ああ… そうだな。安全運転で頼む 」
「そのつもりだが… 」
せっかくだから限界まで試してみよう。更に出力を上げていく。先に空気抵抗軽減の魔導具が限界を迎えて車内に風切り音が響き始めた。
「おいっ! 今の話の流れでどうして速度を上げるっ? 」
「? 限界を試すのは当然だろう。急いでいるし… 」
「そうだがっ… 」
なんだろうな? 他人の運転は恐いってヤツか…
自分でハンドルを握った方がコントロールしている実感があって安心出来るのはわからなくもない。しかし、リエラに使えるのは空術だけ。こいつの運転は不可能。
悪いが代わってやることは出来ないんだ…
とは言えスピードは落とそう。空気抵抗が増大している。回転が上がりすぎているのかちょっと車体がビビり始めている。効率が悪すぎてずっとこの状態では持たないだろう。
速度を下げるとリエラは納得したのかそれ以上何かを言ってくることはなかった。単に諦めただけかも知れないが。
その後もずっと無言で運転しているとなんだか飽きを感じてきた。あまりにも道路に変化がないからだ。最南端にあるジャンクションまでほぼ真っ直ぐの道が続くことになる。
あと七時間ぐらいこんな調子が続くと思うと気分が滅入る。眠気覚ましというわけでもないが意味もなく車線変更をしてみようという気になった。
なるべく強い横Gを感じるようにグンとハンドルを切ってみる。体が横に引っ張られ車体の運動をダイレクトに伝わってくる。
すると…
「おいっ! どうしたっ! どうして曲がったっ? 」
リエラからクレームが入った。
「暇だから 」
「暇!? そんな理由でかっ! 今横転しそうじゃなかったか!? 」
そんなわけはない。ちゃんと余裕は取っておいた。しかし、リエラの言葉にある考えが浮かぶ。
限界ギリギリまで試してみようか?
こいつで沙漠に入ることになる。乗ったまま戦闘をするようなことも有り得るだろう。限界性能を知っておくことは悪いことじゃない。
よし、やろう
魔術で制御すればその前に立て直せる。空術を用意して横転に備えておけば安全に抜かりはない。
俺が窓を開閉するためのハンドルレバーに手を掛けた時、
「おいキサマッ! 何をしようとしている!? 妙なマネは許さんぞっ! 」
横やりが入った。空術を用意したことを察知したのだろう。必死の形相で止めにかかってきている。やめておいた方が良さそうだな。
「何って……実験? 」
「じっ、実験!? 公道でやるな! 迷惑だっ! 」
一理ある…
まあ、沙漠に入ってからもできるか… ここはリエラの顔を立ててやめておこう。
《それがいいでしょう 》
エンジュもそう言ってる…
「なあ、質問をしていいか? 」
俺が術を解くとリエラが話しかけてきた。しかし、どういう風の吹き回しなんだろうか。彼女にしては随分と遠慮がちのような気がする。今までの関係性ならむしろ質問に答えろと命令してきそうなんだが…
《狂人に恐れをなしたのでは? 》
誰が狂人だ…誰が…
ティリーゼに説教でも喰らったんだろうか? ティリーゼの方が立場は上っぽいし。取引先の機嫌を損ねるなとか言われてそう。
「かまわない、遠慮なく聞いてくれ 」
とりあえずそう答えておく。おそらく俺に変なことをさせるよりは話でもしておこうという牽制のつもりなんだろう。
《変なこと? 理解っているじゃないですか 》
しかし、ある意味では打ち解けるチャンスだ。実験は出来なくなった代わりにリエラとコミュニケーションをとる切っ掛けを得ることが出来た。
怪我の功名だな…
「何故この依頼を受けることにした? 」
「何故……って言われてもな… 」
それ程疑問に思うことなのか?
確かに普通の狩人なら断る案件だが騎士団としては俺が依頼を引き受けると思っていたから話を持ってきたはず。リエラとしては何に引っかかっているんだろう。
「報酬は少なくないがお前にとっては普段の狩りをやっていればいずれ稼げる金額だろう… 」
「そうだな 」
「多大な危険を冒すことに見合った金額ではない。となると報酬以外の目的があるように思う。それは何かと聞いている 」
金以外ね… 確かにあるけどリエラに言ってしまっていいんだろうか? あんまり突っ込まれるとボロが出そうだ。しかし、この手の質問に巫山戯た感じで答えるのは気が引ける。
「そうだな… 帝国と信頼関係を築いておきたい…それが一番の理由…だろうな 」
誠実に答えておこう。言えないことはあるけれど…
「信頼か… それはお前にとってそこまで重要なものなのか? 」
やはり突っ込んでくるな…
やりづらいがその分、乗り切ったならいい距離感になりそうだ。
「リエラは俺のことをどこか疑っているだろう? リエラだけでもないだろうが… 俺にとってその状態はあまり好ましくない。俺は別の大陸からの流れ者だし《《こちら》》に寄る辺のない身だからな 」
「………そうだな。わたしはお前のことを疑っている。何者であるのか暴いてやりたいと思っている。その反面、危険な人物だと思っているよ。あまり近づきたい人種ではないとな 」
「……… 」
ひでぇ言い様だな。だが反論は出来ない。随分と大きな力…その片鱗をリエラは感じたのだろう。大きな力は人を遠ざけるものだ。
《力だけでなくその行動もですね 》
どういう意味だ?
《今さっき彼女に危惧を与えたばかりではないですか 》
………その通り




