第327話 帰宅 x 試運転
考えていたら声をかけられた。そちらを見ると二人の警官が遠慮がちに俺を見ていた。どうやら、ずっと正門の前に留まっている俺に不審なものを感じたようだ。
職務質問をしに来たらしい。
まあ、当然だな… だが、抜かりはない
「従魔の毛並みを整えているところだ。定期的にこうしないと不機嫌になるんでね 」
脳内?でエンジュと遣り取りをしながらもジュジュを撫で続けていたのだ。言い訳は用意してある。
「そうでしたか… 立派な従魔ですね。失礼ですが身分証などはお持ちでしょうか? 」
見せる義務はないのかも知れないがここで反発してもしょうがない。
揉めるわけにはいかんのですよ…
おとなしく財布から身分証を取り出すと警官に差し出す。とくと見るがいい。
警官はそれを見てちょっと驚いたようだ。滑らせていた目が丸く見開かれる。俺が強いのはわかっていたようだがここまでだとは考えていなかったのだろう。
「凄いですね。九ツ星狩人なんて初めて会いましたよ。帝都では狩人さんも珍しいですし… 従魔登録もしっかりしてありますね 」
組合員証をこちらに返しながら感心したように言う。不審者を見る目からちょっとした有名人に出会ったような眼差しに変化した。
これが権威の力というやつか…
「やはり珍しいか… 狩人はこういったところには来ないだろうしな… 」
俺がそう言うと警官達は苦笑を浮かべた。そりゃあ中央銀行なんかに興味は無いよな…
俺が身分証を仕舞い込むと警官達は持ち場に戻っていった。俺たちの方はそろそろリニアの駅に向かわないといけない時間が迫る。
さて、帰るとするか…
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「ふぅ~~~~っ 」
タルタインの自宅に戻るとベッドの上に背中を預けて大きく息をつく。
「おうふっ! 」
その上にジュジュがダイブしてきた。不意に乗っかられると少々きつい。今の体重は二百キロないぐらいだろうか? だいぶ大きく育ったものだ。
ここから先はもっと緩やかに成長する。何十年とかけてでっかく育っていくのだろう。普通の魔物とは成長が異なるというのは絡帯のおかげかなんとなくわかった。
しかし、家に帰ると落ち着くな。旅行の効能と言うべきか落ち着ける空間のありがたみを再確認出来る。
魔境にはもっと長くいるのにそう言ったことは感じない。そこは変に感じるが拠点は拠点で、もう俺の家みたいなものなんだろう。縄張りを維持する魔物に少し共感を覚えた。
明日からもう一つの拠点作りを再開していくか…
工房の建設は七割方終わっている。あと数日で完成させることが出来るだろう。
帝都から送った荷物が届くまではタルタインから離れられない。その間に工房を完成させる。完成した工房でタルマンに改良を加え、魔境で試験運用を行う。
そんな予定を立てた。
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「さて、魔物を探すか… 」
改修型のタルマンに乗って拠点から魔境の奥に進んでいく。
帝都旅行から戻って一週間ほど経った。予定通り、荷物を受け取り工房を完成させた。タルマンにバーニアを取り付ける改修を施してここに来ている。
工房の中で燃焼実験をした時のことが思い出された。
迸るエネルギーを直接体で感じるような、そんな迫力のある実験だった…
ちょっと浮き足立っているな、という自覚はあるがこればっかりはどうしようもない。
なんたってタルマンが魔導回路を得てからの初陣となるのだ。
俺にとって今のタルマンは自分の子供のようなもの。回路を搭載してからそういう感覚が強くなった。
実際、魔導回路は使い込んでいくとゆっくりとだが独自に成長する。半ば自立した存在であるかのようだ。ここ数日動かしていくことでそれがわかってきた。
「頼んだぞ… 」
「ミャッ! 」
ジュジュとタルマンの両方に呼びかけるとジュジュから良い返事が返ってきた。それから森の中にダッと駆けていき姿が見えなくなる。
今回、獲物探しはジュジュに任せることにした。最近、あまり動けていないからストレス解消も兼ねてちょうど良い。
当初は、もう一回バオルと戦おうと思っていたがエンジュから流石に非道いのではという意見が出たため別のヤツを探すことにしたのだ。
でも、まあ。それが正解だな…
拠点を開けていた期間も割とある。獲物を狩っていない期間も。そろそろ俺の縄張りに近づいてくる個体がいてもおかしくない。
ギルドに納めることも考えてそいつを狩る。必要なことだ。
遅れてジュジュと距離を取る形で俺とタルマンは魔境を進む。ジュジュの位置は絡帯を通して送られてきている。はぐれたりはしない。
そんな感じで三日ほど探索を進めていると先行するジュジュから連絡が入った。
《・・・・・・ 》
……マジか
どうやら俺を狙っているヤツがいるらしい。やはりタルマンは目立つから相手から丸わかりのようだ。
今は距離を開けて俺を観察しているという。空術で姿を消していてどんな魔物か特定出来ないがやる気であるようだ。
どうするかな?
向こうから来るなら願ってもいないチャンスではある。しかし、相手は慎重そうな感じがする。姿を消すヤツは大抵そうだ。
こちらが索敵術で相手を特定すれば逃げるかも知れない。そうなったら、おそらくだが拠点を突き止めて寝込みを襲う作戦に切り替えてくるはず。
それは気に入らないな…
ガン・ザシャの時の記憶が蘇る。
ここで倒してしまいたい。いや、倒す。
こちらが相手に気付いていると気取られないようにこれまで通りの動きを続けていく。
……ウィィィ………ウィィィ………
静かな森の中にタルマンの上げる微かなモータ音だけが響く。特有の魔力波も出ているだろうし隠密行動には本当に向いていない。
だが、こう言った手合いには格好の獲物に写るのだろう。悪いことばかりではない。
とは言え対策は考えるべきなんだろうか? 解決する目処は立ちそうもないが…
そんなことを考えつつ、隙を見せながら移動しているが相手にこれと言った動きはない。思ったよりかなり慎重なヤツのようだ。
それならいっそ寝たふりでもするか…
《ジュジュ・・・ 》
作戦を伝えると手頃な場所で動きを止める。タルマンをかがみ込ませて座った状態を取った。休息に入った風を装う。
より一層警戒する可能性もある。いや、コイツなら必ず警戒を強める。しかし、根気よく隙を見せ続ければチャンスだと確信する瞬間が来るはずだ。
そう信じてほとんど寝た状態に肉体を落ち着けていく。森の静寂が体に染み渡ってくるようだ。
危うい状態ではあるがヤツの動きはジュジュが見張っている。その時が来れば知らせが来る。ジュジュを信用し、さらに力を抜いていく。
それから十分ぐらい経過しただろうか? 随分と長く感じる。
本気でうつらうつらしてきた中、終にその時が来た。
《・・・! 》
弾かれたようにタルマンを立たせると腰を回転させて腕を思いきりぶん回す。
―ドゴォッ!
ジュジュの指示に従って振り抜かれた拳は見えない相手を捉えた。衝撃と共に弾き飛ばし、タルマンを通して手応えが伝わってくる。
一瞬だけ迷彩術が解けて相手の姿が見えた。それは真っ白な毛並みをした大きな熊だった。




