第324話 帝都旅行 x 最終日
帝都観光も三日目の最終日を迎えた。
今日やることのメインは再び獣人街に行って珍しい、いや、俺にとっては懐かしい食材も含めていろいろと買い込んでいくことだ。
今回は下見のつもりで買い物をする予定はなかったから大きめのバッグは持って来なかった。だが、ホテルの従業員に聞いてみたところホテルに段ボール箱が用意されていて、そこで梱包すればホテルから自宅に荷物を送れるのだそう。
そして、エンジュからの補足説明により運送会社の営業所で箱を買ってそこで梱包して自宅に送るという手段があることを知った。
どちらでも良かったが時間のロスを考えたら近場の営業所を探した方がいい。
方針を決めると獣人街に行き前日に目を付けていた食材を買っていく。両手で持てなくなるぐらいに買い込んだら、エンジュに近くの営業所を検索してもらいそこで梱包して発送手続きを行う。
手ぶらになったところで再び食材を買い込んで発送、三回ほど繰り返したところでやめておいた。
本当は十箱ぐらい買いたいところだったが賞味期限の関係からやめておく。亜空間に入れておけば劣化はしないので俺にとって期限は意味をなさない。しかし、それをやってしまうと絶対に奇異の目で見られてしまう。
ほどほどが大事だよな、ほどほどが…
《既にお店の人からは奇異の目で見られていますが… 》
まあ、多少はね…
さて、この後はどうするかな?
帰りのリニアまではまだ時間がある。もう一度本屋街に行って今度は本を買い漁ることにしようかと思うがそれには多少の抵抗があった。
また、監視を受けることになるかな?
昨日の件である程度帝国とは打ち解けたような感じもあるが、冷静になってみると、そこまででもないんじゃねって思えてきた。
帝国も巨大だ。決して一枚岩ではないだろう。クラークの所属と話が付いたからと言って別の組織もそうだとは限らない。
別に俺が監視を受けるのはいいんだが、いちいちその為に人を動かしてしまうのも心苦しい。
とは言え、本は買いたいしどうなるのか試してみたいと言う気持ちがある。
……行ってみるか…好奇心には勝てん
《好奇心は猫を殺すという諺がありますが… 》
知ってるよ…だが、殺されるほどのことじゃない
昨日と同じルートで本屋街へ行く。地下軌道の駅から地上に出てみたがとりあえずは監視が動くと言うことはなかった。それらしい気配は感じない。
書店を巡って興味を引かれた本を書棚から抜いて購入していく。ある程度溜まってきたら運送業者の営業所に出向いて自宅に送った。
まあ、本はこんなものでいいか…
タルタインにも本屋はある。ここほどの品揃えではないが困るほどではないだろう。
もうじきお昼になるし切り上げるにはちょうどいい時間でもある。喫茶店に入って昼食を取ることにした。
入った店にはオムライスのようなメニューがあったのでそれを俺とジュジュのふたり分、注文してみる。
ここら辺の店はみな喫茶店ではある。ギートとか紅茶と言った飲み物がメインではあるが、店ごとに違った得意料理があるようだ。ここの店にはないがハンバーガーやサンドイッチ、スパゲッティなどメインメニューが店舗で異なるという。
中には被っている店もあるだろうがそれぞれ違う特色を出して客を引き寄せているらしい。
競争の結果でもあるんだろうがバラエティに富むことで街全体で人を呼び寄せることになっているようだな。競争相手で有りながらも協力関係でもある。実体は複雑だな。本屋と喫茶店は共生関係でもあるし。
注文した品がやってくると思考を止めて食べることに集中していく。
木製のプレートの上、中心にはでかでかと卵の幕で覆われたものが居座っている。そこにデミグラスソースのような茶色くとろみのある液体がかかっていた。
その奥の空いているスペースには付け合わせのポテトサラダと葉野菜を中心としたサラダ、それにニンジンやインゲン豆が配置されて彩りを添える。
見た目に華があるな。食欲をそそってくる…
先ずは冷めない内にメインのオムライスから食べることにする。スプーンで中心の一区画を切り取って掬い上げる。断面を観察すると茶色く色づいた米がぎっしり詰まっているのが見える。
米粒は長粒種というやつなのか少し細長い感じがする。そこに細かく刻まれた野菜やら挽肉やらが入っていてそれらをチーズが繋ぎ止めている。
細かな青い粒に見えるのが香草か… 黒いつぶつぶはスパイスのようだな… そういった香りがする
口の中に入れてみるとまず卵のさっくり感と米粒のパラパラ感を感じた。次に溶けたチーズのねっちゃり感と共に外側のソースと米に染みこんだ調味料のコクとうまみを感じる。そこからスパイスの刺激が舌を刺激する。
咀嚼していくとチーズのまろやかさと油気が全体の味をまとめてくれる。途中、爽やかな酸味があることに気がついた。
これはヨーグルトかな?
ヨーグルトを米の味付けに使っているのかも知れない。それにより米粒のまとまりを良くする効果もあるのではないかと考えられる。
飲み込むと鼻の奥に香草とスパイスの香りが広がって後味のくどさを打ち消す。すぐに次へとスプーンが伸びる。
オムライスを食べている途中にサラダへと手を付ける。
ポテトサラダの味は控えめで優しい味だった。サラダのドレッシングはレモンベースのサッパリとしたものだ。舌をリフレッシュさせてくれる感じがある。
ニンジンとインゲン豆を塩茹でしたものにはオムライスのソースを絡めて食べてみた。これがいい味変になる。
食べ終わったときは十二時を回ったところだった。まだ、リニアの時間には早い。次に何をするか考えてみる。
とりあえず今のところ俺を監視するような気配はない。誰にどう見られているのかわからないがそれなりに自由に行動しても良さげな気がする。なら、せっかくなので名所とかをいくつか見て回りたい。
まあ、帝城に近づくのはやめておいた方が無難だが…
それを加味してどうしようか?
そこで、ふとティリーゼと話したときのこと思い出した。
帝立騎士学校か… ちょっと見てみたい
そこに行ってみることにしてエンジュに案内を頼む。地下軌道を使って移動して現地に到着するとすぐに騎士学校が見える…いや、見えない。
高い塀で囲まれていて中の様子はまったく見えない。入り口に回ってみたが門扉も閉ざされていた。木に鉄板を打ち付けたような大きく重厚な扉は完全に外界と遮断している。
中を覗くには跳ぶしかない…
《やめてください 》
まあ、やるつもりはない。それをやってしまったら帝国に睨まれる。何故か頭を抱えて悩んでいるクラークのイメージが頭に浮かんだ。
でも、がっかりするほどではない。中の音は少し漏れて聞こえている。なんとなくの雰囲気を味わえただけでもそれなりに面白いと思えた。
さて、次はどうしよう?
塀や門扉を見ているのも流石に飽きてきた。なので別の場所へ行くことにする。リニアの駅に向かいながら寄れるところがいいだろう。あと一ヶ所ぐらいならいけるぐらいの時間はある。
エンジュ、オススメの場所はないか?
《オススメですか…そうですね… それなら中央銀行などはいかがでしょうか? 》
中央銀行…
帝国系の国々に広く流通しているエスク硬貨を発行している場所だ。日本だと日銀がそれに該当するだろうか?
日銀と違って紙幣は発行していないがエスク硬貨にも一枚一枚番号が刻み込まれている。中央銀行の名前も私が作りましたとばかりに刻印されている。
亜空間の存在と能力をもっとも知られてはいけない相手だ。
亜空間なら魔鉄も造り放題だしその加工も自由自在。いくらでも偽造することが出来る。知られたら間違いなくいい顔はしないだろう。
やらないけどな…
そもそも高額の遣り取りなんてほとんど銀行の口座を介して行われるものだ。ジャラジャラと現金を持ち出して取引に使うなんてシーンは限られる。わざわざ大量の硬貨を使いたがるなんてのはそれだけで怪しい。
偽造硬貨を使うならば日々の買い物で使うとかそんなせこい使い方ぐらいのものだろう。
しかしながら、考えていると気になってくるものだ。敵情視察というわけでもないが一度視ておくのもいい気がしてきた。
よし、そこに行こう
《かしこまりました、案内します 》
再びエンジュの案内で地下軌道に乗って移動する。地上に上がり少し歩くと先ほどと同じように高い塀で囲まれた建物に到着した。
こちらは騎士学校と違って門扉は格子状になっていてその隙間から建物の様子はうかがい知ることが出来る。
何というか… 厳つい建物だな…
とても歴史を感じさせる外観をしている。古びた感じはタルタインの狩猟ギルドを思わせるが、それよりも装飾的な部分が多い。
しかし、装飾と言っても煌びやかな感じではなく、なんというか、古い教会にガーゴイルの彫刻が飾ってあるようなそんな感じだ。
良くわからない動物の彫刻があり、それががっしりとした建物と相まって見るものに威圧するような印象を与える。そして…
監視されているな…




