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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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320/333

第320話 獣人街

高いところに飽きてきたらエレベーターで地上まで降りる。降りる時もかなりの速度で動くので減速時はズシッとした感覚があった。


地上に降りるとカレズ・ナクトを後にしてホテルへ向かう。エンジュにジュジュも泊まれるホテルを検索してもらって電話で予約をしていたのだ。同じ地区にあるのでそんなに時間をかけることなく到着した。


フロントでチェックインを済ませると鍵を受け取って部屋まで行く。部屋は最上階付近のかなり良い部屋をとった。その分、値は張るがたまの旅行なので良しとしよう。


鍵を開けて中に入ると内装は想像以上に豪華なものだった。


まず部屋の大きさが目に付く。セミダブルぐらいの大きさのベッドが二つ並んでいるがそれでも狭いとは感じない程に余裕がある。天井も高くてより広く感じる。


窓側に行ってカーテンを開けると大きな窓から近代的な街並みが目に飛び込んでくる。


上から見たのとはまた違った風景だ。


ビルの間から見るエルナーシュの街並みは小さな住宅や店舗なんかがより鮮明に見える。道路を行き交う人々もよく見ればその表情までが読み取れる。


より奥行きを持って帝都が見えている。


全体を把握するなら上からの方がいいのだが距離が近くなった分よりリアリティを持って街の空気を感じられる。それは地上付近にいるのとはまた違った空気感だ。


次は窓から離れてバルコニーへ行く。この部屋にはそういった設備も付いていたりする。


部屋の中からバルコニーへ続く扉を開けるとこぢんまりとしながらもお洒落で雰囲気のいい空間があった。


外に出て直接眺めてみる。部屋の空気とは異なるにおいや湿度、温度を感じる。街の雑踏、車の騒音と言ったノイズが直接耳を刺激した。


部屋の中からよりも街の鼓動がダイレクトに感じられて自分もその中にいるのだという気分にさせられる。


ホテルの一室という仮の住処ではあるが自室からそれ感じ取ることで自分の街であるという錯覚を覚えているのだろうか?


錯覚だとしても日常と非日常の境界線上にいるような今の感覚が面白くもある。ここに来てそういったことを思うのはここが帝都だからなのかも知れない。


誰もが認めるような大都市には人を引きつける何かがあるんだろうな…


バルコニーにはテーブルと机が置かれていた。朝食はここで目覚めていく街を感じながら取るのもいいかもしれない。


部屋の中に戻り細かな内装に目をやる。シンプルモダンといった感じの内装で派手さはないが決して華がないわけでもなく実直さの中に訴えかけてくるような芯を感じる。


特に枕元のランプが気に入った。金色をしていて一見主張が強そうなのだが直線的で単純なデザインにより部屋に無理なく溶け込んでいる。

特注品なんだろうか?


部屋の検分が終わるとこれからどうするか迷ってしまう。特に予定は決めていなかった。このまま街をぶらぶらしてもいいのだがこの近くは従魔連れで入れそうな店は少ないらしいのでなんとなく行く気にならなかった。


なので部屋の中でジュジュと遊んだりブラッシングに専念してやる。ここのところロボット製作や工場建設に忙しくてあまりこう言ったかまい方をしてなかったのでいい機会だ。


夕食にはルームサービスを取った。フレンチのフルコースみたいな料理だった。前菜からメイン、デザートまでどれもが技巧を凝らした美味い料理で非常に満足したのだが何故か記憶にあまり残らない感じだった。


俺の理解が追いつかなかったからだろう。認識するための正しい知識がなかったからだ。決して俺がバカ舌と言うことではない。


~~~~~~~~~~~~~~~


翌朝は昨日考えた通りバルコニーで朝食を食べる。朝食メニューは焼きたてのパンとサラダ、ベーコン、目玉焼き、フルーツの盛り合わせに飲み物はギートだ。


サラダのドレッシングが美味いな… パンも異様に美味い、ふっくらとしていて小麦とバターの香りがいい…


なんでこんなに美味いんだろうな? ただの塩胡椒を振っただけの目玉焼きですらなんかうまい…


シチュエーションかな?


食事をしている間に眼下では人通りや車が増えてきてざわめきが徐々に大きくなっていってる。日もだんだんと高さを増して空気が熱を帯びていく。


俺も食べるごとに活性化してきている。そんな感じがしている。


朝食が終わるとフロントに鍵を預けて外へと繰り出して行く。最初に向かうところは獣人街だ。


ホテルからほど近い軌道列車の駅に向かう。リニアの駅に隣接したターミナル駅から獣人街に近い駅まで乗りストリートの前までやって来た。


外側から眺める感じは和風テイストと中華テイストを混ぜ合わせたようなデザインの建物が整然と並んでいる。日本ほど地味というわけでもなく中国ほど派手というわけでもない。


帝国風を一部取り入れているのか元々こうだったのかわからないがなんだか奇妙で面白い。異世界に来たという感じがする。


そう思うのは俺が日本や中国について知っていて、尚且つフィクションの話を知っているからなのかも知れない。


どこかパチモンのようにも見えるな…


だが、通りを歩く人達は本物の獣人だ。着ている服こそ帝国のものではあるが頭には髪の毛の間からピンと上に向かって立つ耳のような突起物が見える。副耳という名称がついている獣人の特徴だ。


その形は様々ある。尖っているものから丸いもの、長いもの短いもの、横に寝ているものもある。色も様々で、斑や縞になっていたりと模様もそれぞれだ。髪の毛の色と模様はおおよそ副耳と一緒のように思える。


散策してみるか…


外から見ているだけではどうにもならないので通りに入ってどんな店があるのか練り歩くことにする。


いろんな店があるな…


食料品を扱う店が多いようだ。土産物屋みたいにひさしを伸ばして店頭をオープンなスペースにしている。通りに商品を張り出させてアピールするスタイルだ。


何十種類もの米を扱う店や味噌を扱う店、醤油のようなソースを扱う店、はたまた店作りの豆腐を売っている店まであった。その中で特に気になった店があった。乾物屋だ。


んん? あれは…


台の上に陳列されていた商品の中に黒くて細長い、硬そうなものがざるに入れられていた。


まさかな…


ジュジュには外側で待ってもらって俺だけ中に入り近寄ってみると確かに俺が想像していたものであっているようだった。


「おや、それが何か知っているのかい? 」


じっくり凝視していたらお店の人から声をかけられた。おばあさんと言っていいぐらい年配の方だ。小さくなっている感じがするが背筋はピンと伸びている。


店員さんは観光資源としてみているのか獣人国の服を着ている人が多い。おばあさんもご多分に漏れず和装に似た恰好をしている。


この年代だとただの普段着のようなものかな?


副耳は丸い形をしている。黒と茶色の縞になった髪色もあって狸のように見える。愛嬌がある感じの人だった。


「名前までは知らないが薄く削って出汁を取ったりするものであっているか? 削り粉を料理にかけたりする食し方もあるんじゃないだろうか? 」


「徒人なのによく知っているね、それであってるよ。これはカノサレムって言ってね… ある魚の切り身にカビを生えさせながら乾燥させて作るんだ。ギュッと旨味が凝縮されたような味がするよ 」


どうやら鰹節で合っているらしい。これはもう日本で手に入るような食材はおおよそ手に入りそうだな…


「これを一本もらうことにしよう 」

「毎度 」


つい勢いで買ってしまった。大きなバッグを持ってくれば良かったんだが… まあ、やってしまったものはしょうがない。これを機にいろいろ聞いてみるか…


「生姜を細長く切って赤色に染めたものを知らないだろうか? 」

「ルアレザジュだね。ここには無いけど隣の通りにある大きな店に行ってごらん。あるはずさね 」


あるのか…これは食生活が充実しそうだ


乾物屋を出てさらにいろいろ巡ってみる。おばあさんの言っていた店にも訪れてみたが言っていた通り大きめの店だった。


中には冷蔵設備もあってスーパーマーケットのような業態であるようだ。瓶詰めにされた紅生姜が棚に並んでいるのを発見することが出来た。


事前に聞いていて良かった。聞いてなければそんなに真剣には探してなかっただろう。


一通り見て回ったので、飲食店が混み合う前に昼食を取ることにする。


エンジュに検索してもらい従魔が入れる店に案内してもらった。店構えから内装まで和風テイストが強い。獣人連合国の中でも地域差のようなものがあるのだろう。


店員さんに案内されてカウンター席に通される。座席に座ってメニューを開いて見たのだが、ちょっと驚くことになった。


ほぅ…


エンジュがこの店を選んだ理由がわかった。決してジュジュが入れるからと言うわけでもなかった。


メニューには絵が描いてある。今までに見たことがない。これは獣人国の食文化を帝国人にわかりやすくするための工夫だろうがそれはどう見ても蕎麦だった。


蕎麦が生産されているのは知っているし、ガレットのようなものは食べたことがある。だが、これはそば切りの蕎麦だ。麺状に細長く加工したもので温かいものと冷たいものがある。いわゆる日本蕎麦と変わらないものだろう。


そして、蕎麦の他に天ぷらもある。日本でもこの二つは割とセットになっていた。何かしら合理的な理由があるのかも知れない。


《味の組み立てとして、あっさりした蕎麦にこってりとした天ぷらは相性がいいです。そばつゆは蕎麦にも天ぷらにも合うので両方を同時に味わうことに適しているという理由もあります

 栄養的な観点では蕎麦だけでは不足しがちな脂質やビタミン、ミネラルなどの栄養素を補うことが出来ます

 こちらの世界ではどうかわかりませんが江戸では屋台の天ぷら屋で購入した天ぷらを屋台の蕎麦屋に持ち込んでトッピングをしていたという記録があります。その流れで一緒になったと考えるのが自然ではないでしょうか 》


へぇ… そうなのか

まあ、それはそうとしてメニューを決めよう…


俺は冷たい蕎麦を食べてみようと思うが、ジュジュの分はそのまま食べられるように温かいものにしておく。


だが、ジュジュにとって蕎麦はあまり好みに合わないような気がする。天ぷらも頼んでおくとしよう。


鳥の天ぷらがあるな…


それを中心にして魚介系と野菜の天ぷらを注文するとしようか。野菜も食べさせた方がいい。嫌がるかも知れないが。


注文して待っているとそばはすぐに出てきた。流石、江戸のファーストフードだ。


つゆに付けて啜ってみる。当然のごとく蕎麦だ。のどごしが良く蕎麦の風味が感じられる。つゆも鰹の出汁が良く効いていて甘辛い味に旨味と風味を加えている。


程なくして天ぷらが到着した。こちらも早い。


衣がサクサクで中はふっくらジューシー。いい感じに揚がっている。結構レベルが高いと思う。高級店に言ったことはないけど…


蕎麦が進むな…


隣を見るとジュジュは予想通り蕎麦がそんなに好きではないようだ。かと言って嫌いでもないようで汁まで全て平らげている。つゆの味は好きなのかも知れない。


天ぷらは気に入ったようで丸ごと口に運んでバリバリと食べている。やはり鳥が一番のお気に入りのようだ。意外なことに野菜も普通に食べていた。


だんだん味覚が俺に似てきているのか?

その可能性もなくはないか…


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