第318話 タルマン改修 x 帝都へ
翌日は朝一でタルタインへと戻ることにする。ギルド拠点に着くとハイエースを開いてタルマンを格納していく。
格納する場合の手順はこうだ。
後ろ向きでかがみ込み手を地面に付ける。両足で地面を蹴りつつ腕を伸ばして逆立ちのような体勢を取ると足を伸ばして車体に乗せる。
そのあと、手で地面を押して胴体を跳ね上げると共に足の関節を動かして優しく胴体を受け止める。
それから後ろ向き歩行で固定具に嵌まるように移動して屈んだ状態でタルマンを固定する。
これで良し、と…
ハッチを閉めてダンパーを外すと自宅まで寄り道せずに帰っていった。
家に着くと直ぐさまタルマンの改修に取りかかる。いよいよ魔導具化の作業に入るとしよう。
最初は、各部アクチュエータに電流を流す雷系の魔導回路を作成していく。これにより俺は魔術を使わずに魔力を供給するだけで動かすことが可能になる。つまり十分な魔力量を持つならば誰でも動かせるようになると言うことだ。
自己魔力を雷属性に変換して電流を流す魔術回路を人口魔石に刻み込んでいく。別の魔石に出力の下限と上限を設定、関節の可動範囲も設定してこれを制御系魔石とする。
二つを銅線で繋いで魔導回路が出来上がる。魔力の供給は引き続き俺自身がやることになるがゆくゆくは魔石炉を組み込んで誰でも一定以上の性能を引き出せるようにしていくつもりだ。
出来上がった回路を量産して各部に組み込んでいく。これでも動かすことは可能だがこのままではパイロットがどの関節をどのぐらい動かすのか意識して調整しなければならない。
そこでパイロットの意思をくみ取り各部の制御系に伝える中枢神経の役割を果たす回路が必要になる。パイロットの魔石とシンクロして意思を伝達するための制御系魔石を銅線が集中するコントロールパネルに組み込む。ハンドルが付いている場所の中央に当たる。
この魔石には俺の人体情報から個性を削り取って抽象化した情報が書き込んである。その情報はタルマンに合わせて若干の調整を加えたものだ。パイロットが誰であろうとシンクロしてくれるだろう。
さらに、パイロットの胸部に接触して魔力の変化を伝達する装置を作り出して設置する。これを魔石シーケンサと名付けた。これは機動騎士に採用されていた仕組みを模倣したものだ。
模倣から学べるものもある…
とりあえず形になったので、早速、新システムを試してみることにした。
座席についてハンドルを握り魔力を流す。まず魔石シーケンサが蓋が閉じるように降りてきて俺の胸に密着する。
そこから更に魔力を流していくとタルマンの各部アクチュエータが命を得たかのように動き出し機体が直立していく。
おお、なんか違うな…
以前と比べるとマシンが自動的に動いている感覚が強くなっている。期待を込めて動きの確認を行う。
例によってガレージの中で前進と後退をさせて感触を確かめていった。
………ウィィ……ウィィ………
………カシャ……カシャ………
駆動音は変わらないはずだが、以前と響きが変わっているように感じるのは俺の気のせいなんだろう。動かし心地が地球で動かしていた時のレインメーカーに近づいてきている。
なんか妙な感動があるな…
だが、そのまま動かし続けていると感動も薄れてきて問題点が浮き彫りになってくる。反応にタイムラグがあるのだ。イメージしたのと若干遅れて動作している。
それは魔力出力を上げていく程に顕著になっていく。最大で0.3秒もの遅れになっている。これでは実戦で使えるはずもない。
改善しなければならないな…感動している暇なんてない
試しに魔石シーケンサを外して動かしてみると動かし辛くなり、反応がわずかだがより遅れるような感覚があった。
シーケンサは確かに働いているようだが思いのほか仕事をしていないような感じもする。これも改善が必要だろう。
最初に伝達系から見直してみる。
今はエネルギーとしての魔力を伝えるのも俺の意思を乗せた魔力波を伝えるのも同一の銅線ケーブルで行っている。
出力を上げると気体の反応が悪くなるのはそれが原因のように思う。混線しているというか混雑を起こしているというか、まあ、そんな感じなんだろう。
なので動力系と制御系で通り道を分ける設計にする。
ハンドルから伸びて回路の中の魔術用魔石に繋ぐものを動力系として独立させる。シーケンサから伸びて中枢制御魔石を通り各部の制御用魔石に伸びる経路を新たに作り出して機体内部に引いていく。
これでベースは整った。次はシーケンサの改良に取りかかろう。
シーケンサ有りと無しを比較して有効に働いているのは間違いない。有りの方がレスポンスは良かった。しかし、思いのほか効果は薄い。
感覚から言ったら距離が遠いような感じがした。距離と言っても物理的な距離ではないような気がするのだが…
別の表現にすると壁があると言うべきだろうか? 感覚を深く辿っていくと俺とタルマンの間に魔力を減衰させる幕のようなものがあるように感じられる。
それは結局のところ俺とタルマンは別の存在であると言うところに起因するのではないだろうか?
魔導回路を搭載する前ならば全て俺の意思で動かすことが当たり前だったが、中枢制御系を得た今、タルマンは独立した存在へと変化しつつある。
完全に一体化するのは難しいな…
性能を上げるほどに溝が深まる。そういう構図なんだろう。あれこれ考えた結果、橋渡し役を用意することにした。
シーケンサの接触部の近くにとある魔石を埋め込む。パイロットの魔力波を翻訳して増幅させるための魔術回路を組み込んだ魔石だ。これを中枢と繋げる。
これで一通りの魔導化改修が終了した。早速、乗り込んで動かしてみる。
おおっ、いいぞっ、これは!
以前とは比較にならないほど滑らかに動くようになる。自分の体の延長のようでいてそうでない不思議な感覚…… 俺はロボを動かしているって実感が持てる。
その後は手部ユニットの改良に取り掛かった。
指の数を五本から四本に減らしてその分一本一本を大きくしてみる。数を減らした分、スペースに余裕が出来る。一本当たりの金属筋繊維を増やして強力にするのと同時に、指と指の間を広げて装甲で指を覆っても互いが干渉しにくくさせる。
ひとまずはこれで終了させてリオンに魔導回路とタルマンの設計図を送ることにした。
ここまでで一週間かかった。亜空間工房で全て行えば一日で済んだだろうがそれだと味気ない。この一週間は至福の時であった。
このままバーニアの搭載までやってしまいたいがこの狭いガレージでは噴射実験までは出来ない。
そこで土地を借りて巨大な工房を作ることにした。
ここよりも更に街から外れたところであれば二束三文で借りることが出来るだろう。なんだったら俺が実力で開拓してもいい。
でかい工房が完成すればロボットだけでなくいろいろと作り上げることも可能だ。夢が広がる。
リオンへ荷物を送ったあとは狩猟ギルドにいって土地の相談をした。一般人なら危険な土地であったが俺なら平気だろうとギルドが管轄する土地の一部を借り受けて自分で建築を行っていく。
工房の建築と狩りを行うためタルタインと拠点を行き来する生活が始まった。
その間にも見聞を広めるために旅行にでもいこうかという気になったので日取りを決めて計画を立てる。
そして、旅行に出る日を迎えることになった。
ここのところ買い物にもあまり出ていなかったような状況だ。狩り着でも作業着でもない服で外に出るのは久しぶりな気がする。
おまけに今着ているものは新調したばかりのよさげな服だ。帝国の流行を取り入れたファッションになっている…はず…
カジュアルではあるがカジュアル過ぎない絶妙な塩梅になっている。ジュジュの首輪もそれに合わせたデザインに変えている。
ここまでするのは旅行に向かう先が帝都だからだ。帝国の首都、エルナーシュ。人口六百万人を超える中央大陸最大の都市だ。たぶん世界一だろう。
田舎者と思われる訳にもいかない。準備は十全に整えたはずだ。
《さて、いこうか… 》
《・・・・・ 》
ジュジュを乗せて再び街乗り仕様にしたトライクに跨がると比較的郊外にある駅まで走らせる。やがてコンクリートと金属で出来た近代的な建物が見えてきた。
でかいな…
日本でも見たことのある新幹線が止まるような駅だ。周辺の開発も進んでいてこれまた近代的なガラス張りのビルが建っている。
駅に備え付けられた地下駐車場に入りトライクを止めるとエレベーターに乗って改札のある階まで上がってきた。
事前に電話予約をしてチケットは入手している。ジュジュとふたり分のチケットを駅員に見せると無事に通されてホームへとやってくる。
自動改札は既に実用化されているのだが本日乗る列車は特別なものであるので駅員が直接目で改札するのだろう。
タルタインが終着駅であり既に俺達が乗る列車は到着していた。流線型の先頭車両はいわゆるロングノーズというやつで空気抵抗を極限まで減らすために角度のきつい円錐形のような形状をしている。
車体はぬめるような光沢を放つ濃い群青色でカラーリングされていて高級感があった。
五両編成とたいして長くないがホームはそれよりも長く設計されている。今後、乗客が増えていくことを見越しているのだろう。
扉は閉まっていてまだ中には入れないのでその間にたっぷりと外観を堪能していく。
とても美しいな…機能美がある…
《それ、口に出さないでくださいね。気持ち悪がられますよ 》
余計なお世話だ…
これに加えて空気抵抗を更に減らすために空術の魔導回路が備わっているという。俺の使う斬空加速と似た魔術のようだ。
ホームには人が増えてきて扉の前に列が出来はじめると俺達も並んで待つことにした。
少しすると清掃が終わったのだろう、扉が開いて作業員が出てくると乗客が入れるようになる。
中に入って自分の予約した座席を探す。前から四列目、二人席の窓際と通路側だ。ジュジュを窓際に座らせて俺は通路側に座る。
動物が苦手な人もいるかも知れないからな…
そういった心配もあったが満席になることもなく座席の空きは十分にあった。前後の席も人はいない。平日の昼前ぐらいだから空いているのだろう。そういった時間を狙っていた。
おとなしく出発を待っていると発車ベルが鳴った。定刻通りの出発だ。
来るか…
感覚を研ぎ澄ませて変化に気を配っていると僅かにふわっと浮き上がるような感触があった。それから音もなく前進していく。
この列車は電磁気力を動力としている。磁気浮遊型のリニアモーターカーだ。車輪がないから列車と言うのは変な気もするがほかに適当な言い方が思い浮かばないから仕方がない。
これといった加速負荷を感じることなくリニアの速度はぐんぐんと上がっていった。窓の外の景色が物凄い勢いで後ろに流れていくようになってきた。
技術者のこだわりなのか運転手の技量か、あるいはその両方なのか。加速度を感じさせない程、滑らかに加速していく。
やがて最高速度に達したのか僅かに感じていた変化も感じられなくなった。時速七百キロ近くにもなるだろう。
経路はほとんど直線から成っていてカーブは存在しないと言っていい。途中でトラブルがなければ最高速を維持したまま帝都エルナーシュの手前までいきそこで減速を始めるという非常に安定した運行となる。
一時間程度で帝都に到着する予定だ。
これに乗車することが今回の旅の目的と言っていい。日本にいた時も家族旅行で一度しか乗ったことがなかったからな…
ジュジュもそれなりに楽しんでいるようで窓の外を流れる景色に釘付けになっている。まあ、自分の動体視力を試しているだけかも知れないがそれならそれで楽しいと言うことだろう。
おっ、減速が始まったな…
あっという間に減速が始まってしまう。加速に十分、等速走行に三十五分、減速に十五分ぐらいの割り当てだ。リニアは都会の風景の中で徐々に速度を落としていき、エルナーシュのホーム中央で僅かなスイングバック?を残してピタリと止まった。
定刻通りの到着だ。かなり正確な運行だ。
時刻は午後一時前と言ったところ。お昼には遅い時間帯だが帝都ならば食うに困ることはないだろう。




