第317話 焼肉 x 検証
バオルの縄張りから離れて拠点まで帰ってくるとタルマンから降りて状態を確認する。
ヤツの攻撃により溶かされた腕のところが大きく塗装が禿げていて痛々しい。それだけでなく熱によって全身の塗装がひび割れたり細かく剥がれたりしている。
そして、なんと言ってもアイツに直接触れていた手袋はボロボロを通り越してほとんど残っていない。
ボロボロになるのは戦うメカの本懐ではある。塗装に関しては別にいいのだが手袋を一戦ごとにまるまる新品に変えるのは面倒というか無駄が多い。
改善の余地ありだな…
とりあえずタルマンについてはこのぐらいにして夕食にするとしよう。雨避けのシートを被せて三階の台所へと向かう。
バオルと戦っている時に思いついた焼き肉をしてみようかと思う。屋内では煙が気になるが空術を使えば排気は楽に出来る。
まずは肉の準備だ。
亜空間の中にある鹿、山羊、猪、熊のブロック肉を適当な大きさに切り分けていく。狩人風ジビエ焼き肉に挑戦だ。
柵状になった肉塊を魔術によって厚さ五ミリ程度に切っていき肉の準備が整う。
既に解体士の手によって熟成は十分に行われている。それによってある程度臭みも抑えられていると言う。なので今回は肉にスパイスをすり込んでいくとか味付けしていくとかをせずにそのまま焼いて食べることにする。
肉の次は野菜だ。網で焼きやすく肉と同じように箸でつまんで食べられる様な形にカット出来るものが良さげだ。
カボチャ、ピーマン、ニンジン、タマネギ…あまり思い浮かばないな…
野菜なんてそこまでなくても良いかとも思ったがそれはそれで負けたような気がする。妥協することも大事ではあるが何故だかそうしたくない気持ちがあった。
考えた末、苦肉の策として生で食べる野菜を用意することにした。大根ときゅうりを肉と同じような形に切る。これを焼いた肉に挟んで食べてみることにする。
これでいいか…
下準備が終わったので火を起こしていく。
食卓の隣に野外用の炭焼き台を用意して中に炭を入れる。そこに高温熱変換で火を付ける。
一階に設けた通気口から炭を通って換気口まで続く風の通り道を空術で作り出すと炭は安定して燃えるようになった。そこに網を乗せて温まったら焼く準備も完了だ。
網の上に火が通りにくい野菜から網の端に乗せていき中心部に肉を乗せていく。ジュウジュウといい音を立てて肉は焼けていった。肉の焦げる芳ばしい匂いが部屋に広がる。
片面が焼けるとトングでひっくり返して中心まで良く火を通していく。
生焼けの方が美味いという話もある。魔物の肉は寄生虫とかいないし安全だ。俺の体も丈夫ではある。
しかし、日本での感覚はそうそう払拭出来るものではない。肉を生で食べることについては未だに忌避感があった。
こればかりは直りそうもないな…
トングも焼く専用のものを用意してある。感染対策は万全だ。
肉が焼けると箸でつまんでタレに漬けて口に運ぶ。
確かに焼き肉だ…
タレは市販のものであるが日本にいた頃と似たような味付けだ。帝国では既にこの答えに辿り着いていたらしい。手に取ってパッケージを読んだ時は思わずむむっと唸りを上げたものだ。
これは白米が欲しくなるな…
俺は迷わず亜空間から炊きたてのご飯を取りだした。なんと帝国には普通に日本と同じような米が流通していたのだ。
獣人連合国では普通に栽培されていて交易の結果、帝国北部のタルタインまではるばるやっていたと言うことだ。
茶碗に山盛りになった白米へタレをビタビタに浸した肉を一度バウンドさせてから肉を喰らい、それからタレが付いて少し甘辛い味が付いた米を口内へ掻き込む。
酒を飲まないならこれが最適解だろ…
その後も、次々と肉を焼きながら焼けた肉を片っ端からジュジュと一緒に食べていく。ジビエ肉ではあるが臭みは抜けていて癖がマイルドだ。食べやすくタレにも十分合う。
だが、山羊肉と熊肉はちょっと癖が強めな感じがする。食べているうちに若干このタレでは弱いかなと思えてきた。
別の皿を用意して香草やらスパイスやらとタレを混ぜ合わせてみるともっと合うようになる。適当に混ぜてみたにしては上出来だ。
いや、単にニンニクとショウガのパンチのある味が食材の癖を粉砕しただけかもしれない。まあ、でもうまいから良しとする。
野菜も焼けてきたので食べようとするとジュジュはそれを拒否してきた。特にタマネギとピーマンが嫌いのようだ。仕方がないので丸ごとのキャベツを与えるとそちらには喜んで齧り付く。
俺もキャベツが食べたくなったな…
適当にざく切りにして皿に盛ったあとドレッシングをかけて食べる。いわゆるおつまみキャベツというやつだ。無茶苦茶美味いというわけでもないがなんか癖になる味と食感がする。
再び肉に戻ると今度は焼き上がった肉で大根やキュウリを挟んで食べてみる。野菜のシャクシャクした食感が加わってこれはこれで悪くない。しかし、野菜の水分で味がぼやける感じもある。
あれをやってみるか…
店に売っていたキムチのような辛い漬物を亜空間から出して食卓に並べる。それも一緒に挟んでから食べると味が引き締まった。
これはなかなかいいな…
肉を全て食べきると今度は甘いものが欲しくなる。腹はもう満杯のはずなんだが急に胃に空きが出来たように感じる。実際そうなっているんだろう。甘いものは別腹だ。
ジュジュにはミルクたっぷりのバニラアイスを、俺はサッパリとしたレモンとイチゴのシャーベットを食べて締めとした。
夕食後は、魔術でささっと後片付けを行いすぐに床についた。そこでジュジュを撫でながらタルマンとバオルの戦いについて総括を行っていく。
まず考えねばならないことは一番最初に起きた正面切ってのぶちかましだろう。
あの時、バオルの角は受け止めることが出来た。だが、当たった瞬間から後退を余儀なくされて土俵際というか木に当たるまで追い詰められていた。
力では対抗出来ていたのだが大きさと質量で押し切られた形だ。どうしようもないことのように思えるがタルマンを通して整地術の効きが悪かったのも原因のひとつだろう。
土術を発動させて足場を作ることが出来れば完璧に拮抗することも可能だったはず。
俺が空術を使って支えるという選択肢もある。タルマンの背中に翼を付けて魔導回路を組み込み推力を得るというアイデアもあった。
しかし、魔術に頼り切って何とかするのはメカっぽくない感じがする。
バーニアを付けることにしようか…
胴体の内部には結構な隙間がある。そこに燃料を詰め込んで推進力に使ってやれば巨大な魔物に対抗出来なくもないだろう。燃料メーターをコックピットに取り付ければよりメカメカしさがアップする。
バーニアと燃料タンクを一体化させたバックパックを取り付ければ推力も可動時間も増やすことが出来る。メーターも増えてメカ度も更にアップだ。
出力や噴射方向の調整は魔導具化させて魔力感覚で行えるようにしていこう。なるべくパイロットの魔力保有量に性能が左右されないようにするのが普及への鍵だと思う。
《普及させるおつもりなんですか? 》
……どうかな? 簡単ではないが同好の士が現れてくれることを期待してもいいんじゃないだろうか?
《性急にことを進めなければ大丈夫だとは思いますが… 》
まあ、ゆっくりとやるさ。正体は隠しておきたいし…
《ですね 》
次に考えるべき事は相手の魔術への対抗策だ。アイツが使った魔術が直撃していたら致命的な損害を受けていただろう。
魔鉄の質を上げれば対抗出来なくもないがそこまでやると目立ちすぎる。そんな質の高い魔鉄をどうやって大量に集めたんだってことだ。
何かしらの装備を作り出して搭載していくか?
現状では俺が魔術を使って対抗していくしかないが、魔術を躱すことを目的とするだけならちょっとした装備で何とかなりそうな気がする。
炎の壁で囲まれた時も空を飛んで上に逃げるか、地面に穴を掘って下に逃げれば何とかなったようにも思う。タルマンに乗っていなければ生身の俺はそうしていただろう。
何かしらの回避用装備を作ることにしよう。余裕があれば防御用の装備を検討する。
そして次に攻撃手段だな。
大型の魔物と正面から殴り合えるパワーを出せている。力比べだけだったら現状でも負けていないのだが魔術を使われると途端に分が悪くなる。
炎を纏った角を掴んでいたらたちまち腕が溶かされていただろう。アイツを空中に吹っ飛ばしてやったときも、事前に魔術で火を消しておかなかったら指が溶けて固着することになっていたはずだ。
強力な武装が欲しいところだ。相手を魔術の上からでも殴れるような丈夫なやつが。しかし、質のいい魔鉄は使えない。対抗するには魔導回路を組み込むしかない。
そこで、帝国の機動騎士が戦っているシーンが頭に浮かんだ。
ライフルの先端から放たれる光がガン・ザシャを追い詰めていく様はロボットアニメに通じるものがある。
あれは、いいものだ…
可能であれば俺も理力兵装を搭載したいところだがそれこそ無茶なことだ。帝国がどう見るのかわからん。それだったら魔鉄の質を最高まで上げる方がいくらかましだ。
飛び道具を使いたいなら実体弾という選択肢もあるにはあるが魔力を込めるのは難しい。銃弾の先端に魔鉄を使えばある程度刺さるだろうが大したダメージにはならないだろう。
飛び道具ならばバズーカを使うのが一番いいのかもしれないな。爆風で吹き飛ばすなら相手との距離も取れるし多少のダメージにもなる。殺すことではなくて追い払うことを目的とするなら優れた武器とも言える。戦術に組み込めば戦いの幅も広がるだろう。
なによりこの世界で既に認知されているものであるから変じゃないし…
結局、戦いの趨勢を決めるのはこの世界では接近戦が主となる。近接武器でいいものを用意するのは必須だ。
具体的なものは実際に作ってみなければなんとも言えないが方針は見えてきたな…やはり、実戦で使って見てこそいいインスピレーションが得られるものだ…
最後にタルマンの手に嵌めていたグローブについてだ。
今回戦ってみて激しい戦闘に耐えられるグローブを作り上げるのはちょっと無理があるような気がしてきた。
元々、グローブを嵌めようと思ったのは人とか物を優しく掴んで壊さないようにするためだったのだが、そもそもその必要性があるんだろうか?
もっと言うと手の形を人間と同じにする必要性も問われる。戦いに特化した形状にした方が戦力の向上に繋がるのだろう。編み物がしたいわけでもないのだ。
だが、魔力感覚的な視点ではある程度人体に構造が近い方が操作がし易いという面もある。構造を単純にしてパワーと耐久性を上げたいところだが大幅な形状変更も考えづらい。
人間の指はどうして五本なんだろうな?
指の数を四本に減らしてその分一本一本を太くしようかと考えたが何かしらの影響が出ないか悩むところだ。
それはやってみて確かめるとするか…
グローブも廃止の方向で検討しよう。魔鉄で手を覆う鎧を作り出して嵌めるのが現実的だろうか? 剥き出しはみため的に良くないから無理だ。
そこで、考えに一区切り付く。気がつくとジュジュは寝息を立てていた。あとはタルタインに帰ってからにすると決めて俺も寝ることにした。
お休み…
《お休みなさいませ 》




