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機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー  作者: 井上 斐呂


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第316話 タルマン X バオル

数分が経つと足元から地響きが伝わってくる。足音も大いに響かせて、ここの主は俺だという主張をこれでもかとしてくる。並大抵のものならこれだけで逃げていく。


しかし、俺は並じゃない。なんたってロボに乗っているんだからな…

《関係ありますか? それ… 》


関係あるさ… ハンドルを握った瞬間、人が変わったように気が大きくなる人間がいるだろう? マシンに乗った瞬間、人はマシンと一体になり肉体も精神も拡張されるんだ…

《それ、ダメなヤツですよ… 》


そんなことより…来るぞっ!


そいつは俺の目の前で急ブレーキをかけると上から見下ろすように睨み付けてきた。


大きな角のある一目で鹿と分かるシルエットだ。体の大きさも尋常ではないがそれはこの世界ではありふれている。


しかし、随分と魔力変異を起こしているものだ。体の至る所を頑丈そうな甲殻が覆っている。並の攻撃では通らないだろう。


特に顔の部分が特徴的な変異を起こしていて硬質な皮膚に覆われながらその下をパイプのようなものが角に向かって通る。非常にでこぼこした厳つい顔をしていた。


顔だけ見れば竜種のように見えなくもない。もはや鹿ってレベルじゃない。草食かどうか怪しく思えてきた。肉を食べたとしても納得する迫力がある。まさしく魔物だ。


《名前を付けましょうか? 》

そうだな、頼む…

《では、バオルと呼ぶことにしましょう 》

良し、それでいこう


脳内でエンジュとやり取りをしている俺を逃げないと見たのだろう。バオルは俺に向かって特大の威嚇を放ってくる。俺の方もタルマンに魔力を込めて対抗していく。


両足を広げて腰を落とし安定した姿勢を作り出したあと、両腕を広げて上げるポーズを取る。体を大きく見せつつも直ぐさま攻撃に移れる体勢だ。絶対に引かない意思を見せつけてやる。


威嚇合戦も数拍のこと、互いが引かないとわかるとすぐに戦闘が開始された。


ヤツは首を下げて角を俺に向かって突き出すと跳ね飛ぶように突進を仕掛けてくる。俺は待ちの姿勢でそれを迎え撃つ。


間合いに入った瞬間、両腕を突き上げるように動かして角の先端を掴む。体を前傾に両足を突っ張らせて踏ん張り、突進を止めようとした。


ぬおお…!

―ガガガガガガガ……

―ザザザザザザザ……


バオルを受け止めきれずに後ろへと流されていく。姿勢は保てているが体重の差はいかんともしがたい。足場が崩されていき為す術なく後退させられる。


―ガコッ!!


後ろを木に塞がれて背中を押しつけられ衝撃が襲ってくる。だが、角がタルマンに突き刺さることはなかった。掴んだまま押し返しせている。


魔力的には拮抗していてバオルの突進でも後ろを支える木が折れることもなくタルマンの胴体も軋むだけで破損していない。


バオルは更に力を込めて貫こうとしてきた。こちらも出力を上げて拮抗させていき膠着状態を続けていった。


パワーでは互角に戦えている。しかし、互角ではこの状態から抜け出すことは出来ない。相手が引かなければずっとこのままだ。


なんか飽きてきたな…


―操空弾性旋回術式、


力比べにこだわりがあるのか意地になっているのか、バオルは魔術を使おうとはしてこない。ならばこちらから魔術を使っていく。


弾空包塊だんくうほうかい


タルマンと木の間に弾力のある空気塊が膨らんでいく。バオルの突進も加えて圧力が高まっていった。そこにねじりが加わっていく。


蓄圧螺旋ちくあつらせん


タルマンの全身に回転する力が加わる。俺はそれに抗うことなく任せようとするがバオルはそうさせまいと回転に逆らい姿勢を維持しようとする。均衡は保たれていった。


だが、一見して静かな膠着状態に見えたとして今にも暴発しそうなエネルギーが渦巻いているのだ。それを…


…解放する


開爆かいばく


圧力が一気に解放されて轟音とともに機体が回転しながら爆進する。バオルの首には逆の回転が一気にかかり自身で駆けていた捻りも加わった。


ヤツの巨体を空中に投げ飛ばしてタルマンごと横回転させてやる。そのまま一緒に飛んでいき、木にぶつかりそうなところで離れる。角を両手で押し返し、顔面を蹴って勢いを殺すと回転しながら地面に落下していき両足から着地した。


機体は… 大丈夫だな…


フレームに問題はない。一番負荷のかかりやすい関節駆動部も魔力で強化してやれば十分に耐えられる。


俺の視線の先では腰を木にしこたま打ち付けられたバオルが立ち上がろうとしている。随分とご立腹のようだ。膨大な魔力が体内で渦巻いている。


その後ろではヤツとぶつかった木が接触部で折れて倒れる。ちょっと申し訳ない気分にもなるがそれどころではなさそうだ。


バオルの角を中心として魔力が集積して行ってる。強力な魔術を使おうとしていることがありありとわかる。


これは…火炎系の魔術だな…


空術と可燃ガス系の複合らしい。魔力視でそれらの波長が見えた。


相手の動きを注視していると角の表面が青白く輝き出してきた。時折、稲妻のような閃光がバチバチと音を立てて走って行く。


一瞬、雷術のように見えたが違うらしい。魔力の作用でプラズマから放電されているしくみのような気がする。感情の高ぶりを表しているかのようであいての本気が垣間見える。


喰らうのはまずいな…


タルマンの耐久力ではおそらく耐えられない。俺でも魔術で防がなければ結構な痛手を喰らう。


バオルは俺の方からは仕掛けてこないと見るや自分の方から仕掛けると決めたようだ。随分と気が強い。


前足を上げて角を振りかぶると思いきり振り下ろす。その瞬間、俺に向けて青白い炎が一直線に吹き出された。


遠距離攻撃ではあるが十分な魔力を含んだ火炎放射だ。燃料自体にも魔力が含まれているのだろう。喰らえば装甲が溶けてしまう。


地面を蹴り横に跳んで躱す。すれすれを炎が通り過ぎていった。だが、それで終わりじゃない。次々と炎が放たれて襲いかかってくる。


腕で枝をつかんで足で幹を蹴り、木々の間を移動して躱していく。その間にも一帯は炎で包まれていった。


自分の縄張りで随分と遠慮がねぇな…

《誰の所為ですかね? 》

……俺かっ!?


なんて遣り取りをしていたら気付くのが遅れた。


ん? 何処に行った?


バオルの姿がいつの間にやら消えている。探知術で気配を探っていくと発見出来た。しかし…


後ろだと!?


すぐ後ろにいる。いつの間にか回り込まれていた。


手足を回してその勢いで上半身を後ろに向かせると炎の壁の中からこちらに顔を出して襲いかかってくるバオルの姿が目に飛び込んでくる。


―空射加速


咄嗟に加速術を発動させて風圧で機体を吹き飛ばし、ギリギリで躱す。振り下ろされた角が腕を掠めて基材ごと塗装を溶かしていった。


クッソ…


攻撃を躱されたヤツは炎の中に姿を消す。また位置がわからなくなった。


どうやら炎の中を高速で移動する魔術らしい。場に撒き散らされた魔力と熱風でヤツの位置が把握しづらい。視覚的にも炎で見えなくなってそれに拍車をかける。


溶かされた腕の装甲を鉄術で修復しながら相手の位置を探っていく。タルマンの腰を回して視線を彷徨わせ、視覚でも探りを入れる。


そうやって警戒していたら炎が俺に向かって吹きだしてきた。


―空射加速


加速して避けると避けたはずの炎が急激に軌道を曲げて襲いかかる。それを加速術で躱していくといつの間にか辺りは炎の壁で囲まれていた。俺を中心として円形の檻が完成してしまっている。


どこだ…どこからくる…


索敵に反応はない。この状態で感知するのは無理のようだ。ならば攻撃の瞬間を察知するより他ない。


………―そこっ!


当たりをつけて振り向いた方向から炎を纏ったバオルが飛び出してくる。角を突き立てようと俺の直前で頭を降ろし突き出してきた。タイミング的にギリギリッ…


「どりゃあっ! 」


軽やかなステップで円を描くようにターンをすると元いた場所をヤツが通り過ぎる。そのまま炎の壁の中に消えていった。


再びじりじりとした時間が流れる。状況的にはあまりよろしくない。


だが、俺は手応えを感じていた。今の動きはさながら闘牛士と言った身のこなしだった。俺の思考とマシンの動きが完璧に同期しているように感じられた。


―魔力域広域展開、大規模魔術演算


操縦技術が向上している… 課題もいくつか明確になった…

収穫は十分だな…

そろそろ終わりにしよう…


―操空減圧術式


こちらの魔術が完成する前に仕留めようというのかバオルは構築が完了する手前で炎の壁から飛び出してくる。位置は俺のちょうど真後ろ…


だが、もう遅い!


後ろに振り返りながらバオルに向かってこちらからも接近していく。それを意外に思ったのかヤツに一瞬だけ躊躇が見られる。


十分な時間だ…


真空絶界しんくうぜっかい


酸素の供給が断たれた世界でバオルの纏っていた炎が弱まる。そして空気抵抗がほとんど無い空間を俺は前進する。


頭が降ろされて角が突き出される前に通り抜ける。前足の間に機体をねじ込んで無理矢理進んだ。


腹の下まで来ると両足を揃えて思いきり全力で蛙跳びをする。


「どす…!


腹にぶち当たる直前に両手を当てて一気に前へと突き出した。


こーーーいっ!」


気合い一発。下から突き上げられたバオルの巨体が空中を舞う。ホームラン級の当たり…今夜は焼き肉だ。


ヤツは三十メートル以上打ち上がり、放物線を描いて落下していく。


《ジュジュ、逃げるぞ 》


目的は既に果たした。ジュジュにも呼びかけて相手が立て直してくる前に撤退を行う。


すたこらさっさと縄張りの外に向かって走っているとジュジュが隣まで走ってきてタルマンに飛び乗ってきた。


そのまま走って行きそろそろ追跡圏外になるだろうと言うところでヤツの鳴き声が遠くから聞こえてくる。


………キュィーーー………


鳴き声は普通の鹿なのか… 似合わねぇな…


一応、縄張りから侵入者を追い払ったから勝利の雄叫びのようにも思えるがなんだかもの悲しい響きも感じる。


ラストは俺の一撃だったからな。釈然としないものがあるんだろう。だが、俺の方はいいデータが取れた。ほくほくだ、ほくほく


《鬼ですか… 》


俺が良ければいいんだよ、それが魔境というものだ…

我が儘を通したければ強くあらねばならんのだよ


《その言葉が自分に返ってこなければいいんですが… 》


それはそう…


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