第314話 タルマン x 試運転、機動騎士 x 接触
さて、これでタルマンを魔導具化していく道筋が立った。それは裏でコツコツと進めていくとしてもっと本格的に動かしてみたい…
しかし、街の中でおおっぴらに動かすのは気が引ける。現状ではタルマンは機構を備えただけの鉄の塊でしかない。見られても問題はないのだが奇異な目で見られてしまうのは必然。それに全力で魔力を注ぎ込めば、すわ魔物かと御近所が大騒ぎになる。
やはり魔境に持っていくしかないか…
だが、そうするにしても亜空間を使うのはダメだな。魔境の空をあれが飛んでいる以上動かしているところを見つかる可能性は十分にある。実際に運び込める状況は作らねばならない。
ハイエースを改造して積み下ろしが出来るようにする必要があるな。場合によってはタルマンもそれ用に改修しなければならなくなる。
面白いじゃないか…
翌日からハイエースの改造に取りかかる。無理のない積み下ろし方法を検討してあれこれ試しながら改造を施していく。
鉄術があればやり直しも簡単だ。設計を変更していきようやく満足のいくものに仕上がった。
数日経が経過すると街での生活にも飽きて魔境へ行きたくなったのでタルマンをハイエースに積み込んで早朝から魔境へと向かっていく。
ブラッセンまでは舗装路を快適に進んでいくが断崖壁から先は途中から剥き出しの道だ。ハイエースも足回りをオフロード仕様にしているしオフロードと言っても荒れた道と言うほどじゃない。
ただ、タルマンを積んでいるから少しのでこぼこでも車体は敏感に反応してしまう。スピードを出すわけにもいかない。道路を削ってしまうという意味でも。
魔境の奥に進むにつれて道はやや荒れ気味になってくる。ところどころで上下にバインバインと跳ねてしまって座席から腰が浮く瞬間もある。
この肉体にとって大したことでもないが乗り心地が悪いのは確かだ。
《・・・・・ 》
ジュジュは助手席で結構楽しそうにしている。そう考えれば悪くはないか…
ギルド拠点に着くと駐車場に停めて狩り場に入ることを伝える。それからタルマンを降ろす作業に入る。
まず、ハイエースの車体をダンパーで持ち上げて浮かせる。これはタルマンを動かした時タイヤに過剰な負荷がかからないようにするためだ。
次に車両の天井を上に開いていく。運転席から後部の天井がキャンピングカーみたいに斜めに上がっていくこのとき後部ドアも一緒に上がっていく。
開ききったら後部ドアを天井の内側に畳んで出入り口が出来た。いよいよタルマンを魔境の大地へと降ろす時だ。
ハイエースの床にタルマンを固定している金具を鉄術で開いて解放してやる。座席に乗り込んでハンドルを握り魔力を流し込んでいった。
ゆっくりと立ち上がり前へと足を踏み出していく。可能な限り優しく動かしていてもハイエースはギシギシと上下に揺れてしまう。
ここは慎重に…
最後尾までやってくると縁に両足を揃えて飛び降りる動作をさせるのだが不用意に行うと車体が動いてしまいそうだ。それを考慮してぴょんと跳ねるとその瞬間、車体は大きく沈み込みダンパーがブシュッと空気を吐き出す音がした。
膝のクッションを効かせて着地するとタルマンは難なく降り立つことが出来た。駐車場のコンクリートが割れるなんて事もない。後ろでは沈み込んだ車体が空気音を立てながらゆっくりと上がっていった。
とりあえずは成功だな…
もう少し素早く降りられるようにしたいところだが慣れていけば速くなっていくか…
それとも何かしら改善を行うべきだろうか?
「なっ、なんですかっ… これは!? 」
考えていたらギルド職員がやって来てタルマンを見るなり驚嘆の声を上げる。何かしら異変を感じてやって来たらしい。
「俺が作ったものだ… ロボ…いや、え~と… 」
なんと説明したものか… こちらにはロボットなんて言葉はないしそれに当たるようなしっくりくる言葉もない。
考えていたら職員から質問が来た。
「これを狩りに使うんですか? 」
「いや、使わないな。試しに動かしてみるだけだ 」
「はあ、そうですか… まあ、大丈夫だと思います… 」
良くわからんが納得はしてくれたようだ。見ている職員を放って置いてタルマンから一旦降りるとハイエースを閉じる。
それから再びタルマンに乗り込み、職員が見守る中、颯爽と森の中へ駆けていく。
あの職員は最後までタルマン見つめていたがひょっとすると見蕩れてしまっていたのかな? この勇姿に… まあ、無理もない
《違うと思いますよ? 》
なんたってロボットだからな… そりゃあ心にびびっと来るものが有るだろう。この世界にロボットファンをひとり増やしてしまったか…
《聞いてませんね… 》
しかし、ロボットか…
さっきも思ったがこの世界の言葉に直すとしたらどう表現するのがいいんだろうな? 機動騎士というものはあるんだがこれはそれとはまた毛色の違うものだ。
チェコ語で強制労働とか労働者という意味の言葉からロボットになったと言うが俺の作るものは働くものではないな…
人型機械……と言ったところか…だが、この呼称が受け入れられるかもわからん。とりあえずは保留だな。
森の中を他の狩人達の狩り場を避けながら進んでいく。通行可能な場所は示されていたりするのだがタルマンで入るのは気が引ける。こいつを使った整地歩行も少々難しく完璧とまでは行かない。
境界地帯を縫うように進んでいくため、いつもより時間がかかってしまう。
途中、興味が出てきたのかタルマンの上にジュジュが乗ってきたので俺の頭の上に乗せるように背中に張り付かせて進んでいった。
いつかジュジュも一緒に乗れるような大型のロボットを作ってやりたいな…
そんなことを考えながら進んでいくと整地歩行もどんどん様になっていき走る動きも滑らかに、森の木々の間を風のように走れるようになる。
それでも普段の俺達よりだいぶ遅い。日が暮れる前にはなんとかたどり着けたが辺りはもう薄暗くなって来ていた。
今日は移動だけだな…
タルマンに防水シートを被せると拠点の中で夕飯作りを開始した。
それから数日は操縦訓練に明け暮れる。そのついでに狩り場の見回りを行っていた。
狩りも出来るなら行いたかったのだがタルマンが放つ存在感の所為か駆動音の所為なのかこれと言った魔物は発見出来なかった。
相手の方から向かってくるような気骨のある魔物はもう、今の狩り場の中には残っていないのかも知れない。
さらに奥へ打って出るしかないか…
ガン・ザシャの件があるしなんとなく不安があるのだがもうそろそろいいかな?
まあ、それはそれとしてこいつを強化していくか…
ハンドルを握り締めて込められるだけ魔力を込めていく。魔力崩壊を起こさないギリギリまで高めていき俺の魔力に馴染ませつつ素材に使っている魔鉄の等級を上げるのが狙いだ。
「ぬっ、おおおおおおおっ! 」
質量が質量だけに隅々まで魔力を行き渡らせるのはそれなりに苦労を伴う。声に出てしまったがここは魔境の中だ。誰に迷惑がかかるでもない。遠慮なく声を出していこう。
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(別視点)
『こちら管制塔、妙な魔力反応を検知した 』
「魔物か? 」
『いや… 人間のようだ… だが波長に不審な点がある。魔力圧も大きい。何かが起こっている可能性がある。現地に行って確認せよ 』
「リゼラ一号機、了解 」
『二号機、了解 』
『三時の方角、距離一万一千 』
(ん? 近いな… )
イスハムは前にガン・ザシャを追い払った時のことを思い出していた。あの時と位置が近いということに引っかかりを覚える。何かしらの関連があるようにも感じられた。
とはいえ確たる証拠があるわけでもない。偶然近場で何かが起こっただけとも考えられる。
先入観が孕む危険性を理解して雑念を捨て去り意識を切り替える。とにかく現地へ赴いて実際に起こっていることを自分の目で見なければならない。
発着場からアルバインの外に出ると二機のリゼラは並んで飛行していく。
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……んん? 何かが接近してくるな…
妙な魔力を感じて訓練を中断する。意識を集中して探っていくとこちらへ一直線に、物凄いスピードで接近してきていることがわかる。
直線的であることと速度からいって空中を飛んでいるようだ。魔力の大きさや質からも言ってこの間の機動騎士ではないかと当たりをつける。
なんだろうな? まさかまたガン・ザシャか…?
索敵術で気配を探ってみるが魔物ではなさそうだ。位置的に目的は俺であるような気がする。
まさか、苦情を入れに来たのではあるまいな…
俺の声がうるさかったんだろうか? いや、それはないか…
ここからアルバインまで結構離れている。声なんて届くはずもない。だとしたら何なんだと思わないでもないが目的が俺だと断定するのも早計…
とりあえず詳細がわかるまで相手の動きを待つことにしよう。
#
「管制塔、件の魔力反応が消失した 」
『こちらでも確認している。対象に動きはなかった。位置は大きく変わっていないはずだ。引き続き反応のあった場所に向かってくれ 』
「了解 」
了解はしたものの反応なしで森の中にあるものを探すのは困難だった。そこでイスハムは高度を上げて上空から視認する作戦をとることにした。
「高度を上げる。目視で探すぞ 」
『了解 』
高度を上げながら目的の座標まで移動すると、高高度から地上に視線を這わせていく。
すると森の中に他とは違う魔力を視ることができた。
リゼラの目は操縦士の魔力視に対応した機能が備わっていて本体は理力で動作していながら魔力を感知することが可能だった。
魔鉄に特有の魔力が見える。そのことで最初は人間なのだろうと思ったが形に違和感があった。
(魔物? いや、そうでもないか? )
判断に困ったので魔力視を切って通常の視覚でよく見てみる。高度も下げていき徐々に詳細が見えるようになってきた。
(なんだ… ひょっとして乗り物か? )
物体の上からひょっこりと人が上半身を出しているのが見て取れる。乗って動かすものだと予想がついた。帝国が所有するリゼラより更に小型の機動騎士、ジュノーに似た雰囲気を感じていた。しかし…
(ダサいな… )
ずんぐりむっくりしていて搭乗者が剥き出しの機体はどこか滑稽にも見える。正直言って格好良くはない。だが、よくよく見ると愛嬌のようなものを感じる。
(蛙に似ている… )
森林に溶け込むためか緑色を基調とした機体は顔の形といいイスハムには蛙を模しているように見えた。
外観についてはさておき、上に報告するためにも詳しい情報を知らなければならない。降りて顔を合わせた直接の接触をしてみようと考えた。
「管制塔、人を発見した。接触を試みる 」
『こちら管制塔、了解した 』
二機のリゼラが魔境の森へゆっくりと降下していく。




