第313話 ロボット製作② x リオンとの通信
昼食を取った後は残りの作業に取りかかる。最初は肩関節からだ。
肩も人体では球状関節をしていてぐりぐりと動く。鎖骨や肩甲骨やらいろいろな筋肉なんかが関わっていて複雑ではあるが、それをそのまま機械に置き換えるのは効率が悪いので単純化させる。
まずは腕を回す動作をさせるために腰部ユニットでやったように回転する円形の土台を作り上げる。そこに横に開く動作をさせる軸を取り付ける。これの可動域は九十度と少しぐらいだが二つを組み合わせれば半球状に腕を動かすことが可能だ。
肩部ユニットが出来上がったので胴体に取り付けて腕部ユニットの作成に取りかかる。
これも脚部と同じで曲げ伸ばし出来るだけにする。一軸の、九十度と少し曲がるだけの関節を作り出して完成だ。
そうしていよいよ最後になる手部ユニットを作成していく。
手を捻る動作をさせるために回転する軸を作り上げるのだがここでドリルパンチを打てるようにしたいと思ったので自由回転が出来るようにしつつ、指先に電力が供給出来るようにさせなければならない。
ケーブルを通す方法ではダメだ。腰部・肩部・足部ユニットはケーブルを通しているので回転に制限がある。
なので回転接触端子を作り出して設置して制限無く回転出来るようにさせる。これで拳をぐるぐると回せる。ドリルユニットを作り出して交換することも可能だ。
そこに手を作り出して設置するのだが足部と同様の問題が出てくる。モーター駆動だと複雑で強度が下がるし重くなる。足よりも手の方がその問題は大きい。
開く閉じるだけのロボットアームでも機能的に問題はない。というか別に何かに使うために開発しているわけでもない。
だが、それだと見栄えがよろしくない。妥協した感もでてしまう。やはり足と同様に人工筋肉タイプで作り上げるのがいいだろう。
人体を模した骨格に魔鉄を成形していきそこに筋肉に当たる鉄繊維を張っていく。手首から上が完成した。
剥き出しだとキモいな…
金属製の手だけ人体模型といった有様だ。現代アートにも見えなくもないがこのままでは見た目がよろしくないし掴んだものを破損させてしまいそうだ。
物体と接触する面に薄くゴムを張り付けてその上から綿を入れた手袋を作り出して被せてみる。
手袋はとりあえず亜空間の中にあった綿製の糸を木術で編んで作ってみた。魔力格は少し高めてあるので強度的には問題ないが軍手のような伸縮性のある素材で作りたかった。
あとで手袋を作っているような工房に製作を依頼してみるか…
《聞いてくれますかね? 》
まあ、訝しがるよな。何でこんなデカい手袋が必要なんだって。実際にこいつが動いているところを見せて説得するより他ないだろう。依頼を受けてくれるかどうかは未知数だが。
手袋を被せた手パーツを土台と繋いで手部ユニットが完成する。これを腕部ユニットと繋いから肩部ユニットに繋いだ。ようやく機体が形になった瞬間だ。
動かしてみるか…
再び座席につくとハンドルを握って魔力を流し込んでいく。最初は腕だけを動かしてみる。
さほど広くないガレージの中では腕を大きく動かすと壁や天井に当たってしまうので控えめに動かしていく。
前に上げたり後ろに引いたり、曲げたり開いたりを繰り返す。感覚が掴めてくると今度は手の動作をさせてみる。
手をゆっくり内回り外回り交互に回してから同じ方向に何回転か素早く回転させてみてドリルの具合を確かめる。それから、手の指一本一本を小指から折り曲げていき拳を握りこむとしばらく回転させて少しだけドリルパンチの感触を味わってみた。
回転を止めると親指を立ててグッドのジェスチャーをする。そこから指を伸ばしてパーの形を作り、力を抜いて初期位置に戻した。
腕の動作確認が終わると全身を動かしてみる。
立ち上がってゆっくり前後に歩いていく。腕が加わる分少し難易度が上がった。下半身の動きと腕の動きを同期させるのが若干難しい。
それでも続けていけばだんだんとコツがわかってくるものだ。それぞれの動きを一連の流れとしてパッケージ化することが出来てくる。腕をバランサーとして使えるようになってくるとむしろ動かすのが楽になってくるまである。
これなら走ることも可能だろう。もっと習熟していけば戦うことも出来そうだ。
俺の体重が六十キロちょっとぐらいでいろいろ装備を含めても百キロいかないのに対してこいつは五百キロぐらいある。使用した魔鉄の等級は抑えてあるがこいつの物量を利用すれば出せるパワーは俺の何倍にもなるはずだ。
今すぐ魔境に持っていきたいところだが狩りに使うのは難しいか…
警戒されて避けられるような気がする。隠密行動にはまったく向いてない。こいつで獲物を綺麗に狩れるビジョンが浮かばない。この先しばらく日の目をみることはないだろう。
まあ、まだ試作の段階だ。ブラッシュアップしていけばいつか何かに使えるはず…
切り替えて最後の仕上げを行っていく。
ヘッドライトをつけ、補強を行い、凹凸をつけてデザイン性を上げていく。最後に塗装を施して完成した。
ようやく完成したな… 感無量だ
魔術が使える分、考えられないほど簡単に開発が進んでいった。作業自体は一日かかっていないのだが多分そう言うことじゃない。
この世界に来て二年と少し。自分が思い描いていたところへ最初の一歩を踏み出せたんだ…
ああ、そうだ… こいつに名前を付けてやるとしようか
改めて名前を付けるつもりで外観を確認する。円筒型の胴体部分は強度を上げるために中程を膨らませた樽型をしている。そこに人間のような手足が生えたかたちだ。なので…
タルマンにするか…
《(ダサ)……いい名前ですね 》
いまダサいって言わなかったか?
《言ってませんよ。空耳では? 》
念話で空耳? 妙だな…
まあ、それはいい。どうせ試作機だ。大仰でカッコいい響きの名前をつけるのは似つかわしくない。
戦車のことを英語でタンクというのは敵に存在がバレないように水槽という隠語を使って通信をしていたからだそうだがそれっぽくていい。戦車と水槽…形の類似性はある。
樽っぽい人型だからタルマン。いいじゃないか。むしろ気に入ったよ。丸形のヘッドライトの上半分が機体の上部から飛び出ていて蛙のような顔にも見えている。気の抜けた響きが合っているように思う。
《そうですか…ムムッ、言われてみれば… 》
とは言えこいつは動きの全てを俺が魔術でコントロールしてやらなければならない。初期のトライクと一緒で自転車と一緒だ。
こちらの車も大概そうなんだが…
これを俺以外の人間でも使えるように魔導具化していかなければならない。
だがここで大きな問題が出てくる。
俺が魔導具を作れるのは外から見るとおかしい。魔石の情報を書き換えるには理力石が必要だが俺が持っているはずもない。開発しているのがバレたら不審に思われる。
トライクに組み込んだ魔導回路もバレたら危ういところがあるがそれとはレベルが違う。あれは既にこの世に存在している魔導回路とほとんど同じものだ。
個人が手に入れるのは難しいものだったりするのだが不可能と言うほどではない。いくらでも言い訳が効く。
だが、ロボットに組み込む魔導回路はそうもいかない。中枢システムに使うものはこいつにあわせて調整したものを使用しなければならない。
この世に存在するはずがない、新たに作らなければ…
《では、どうするというのですか? 》
俺が開発したと言うのなら問題が出てくる。ならば別の人間が開発したことにすればいい。
《別の人間… そんな都合のいい人材がいるのですか? 》
リオンがいるじゃないか
もともと魔導具開発が出来ると帝国が認めている上に遺跡から理力石を得てさらに開発スピードは上がっている。やつなら打って付けだ。
やつは俺に借りがある。まだ魔石の代金分を返済しきっていないのだからなぁ…
《悪い顔をしていますね… それはリーン様の借りなのでは? 》
わかっている、七割ぐらいは冗談だ…
《残りは… 》
リオンはリオンで俺に依頼を出して俺はそれを引き受けているからな。貸し借り…と言うか関係性は構築されているんだ。無下に断ることは出来まい…
それにこれはリオンにとっても悪いことじゃない。俺が開発した魔導回路自体はリオンにとっては直接必要なものではないと思うが、その情報は参考になるだろう。大いに刺激となるはずだ。
《なるほど…一応、考えはあるのですね 》
一応は余計だ…
まあ、ただ、リオンに事前の確認を取らなければならないんだけどな…いざという時のための口裏合わせをする必要もある。相手が引き受けるならばの話だが…
早速確認をするとしようか…
二階へ上がっていくとダイニングキッチンに備え付けられた電話の前に来る。なんやかんやで電話を持つことにしたのだ。
セリアには何度かかけていたがセリア以外にかけるのは初めてだ。
旅立つ前に自宅やら学院やらの番号を聞いてメモしておいた。帝国について落ち着いたらかけると言っておいたので遠慮なくかけたいところだが今、リオンは何処にいるんだろうな?
この時間ならまだ学院か…
学院にかけると職員が電話口にでる。そこからリオンに繋いで無事に繋がることになった。
「久しぶりだなリオン…早速だが頼みたいことがある 」
『えっ、いきなり!? もう少し、ほら、あるでしょ…積もる話が… 』
「冗談だ、冗談… 」
『ホントかなぁ… 』
「俺の冒険譚を聞かせて進ぜよう… 」
レイゼルト王国を立ってから帝国に着くまでのあれやこれやをリオンに聞かせていく。
エストルやレーネのことについてはリオンには話さないでおいた。リオンの立場的に巻き込むのもよろしくないという配慮からだ。いずれは共和国の研究者とも交流を持つかも知れない。
そのせいでところどころ整合性が怪しいところが出てきてしまったがどうなんだろうな? リオンはいちいち大袈裟に反応して聞いているがおかしいと思っていないだろうか?
リオンのことだから気付いていながら敢えてスルーしているって可能性が高いな。そういうやつだ。
「とまあ、こんな感じのことがあったんだがそろそろ頼みたいことに移るぞ… 」
『ああ、そうだったね。何かな? 』
俺の旅についての話が終わるといよいよ本題に移る。
「俺も魔導具を作ることにしたんだ。それも、今までにあまりないようなやつだ 」
『へぇ、やっぱりレインも作れるんだね… どんなものなのかな? 』
「それについてはリオンのところに実物を送ろうかと思う。確かめてみてくれ。それでなんだが… 」
『僕が作ったことにすればいいんだね。わかってるよ 』
「流石リオンだな、話が速い。そう言うことだ 」
皆まで言うなって感じだな。助かるね…
受話器の先のリオンは特に気にした風でもない。俺の事情を慮ってくれている。
「それでリオンのところからも俺宛に何かを発送してくれると助かる。中身は何でもいいし任せる。出来れば定期的に… ああ、学院の住所からの方がいいな 」
『擬装するためだね。残る記録は多い方がいい…かな? 』
「そうだな。ありがとう、恩に着る。近いうちに学院に送るようにする。楽しみに待っていてくれ 」
『レインの作った魔導回路か… 確かに楽しみだね 』
「それじゃあ、この話は終わりにするぞ 」
まだ電話料金は結構高い。稼いでいる方ではあるし懐が痛むというわけでもないが気になってしまう。貧乏性か?
『ああ、ちょっとだけ待ってくれるかい? 』
「ん? どうした? 」
『これで魔石代はチャラってことでいいかな? 』
「………残りはリーンから取り立てるとしよう 」
こういうやつだったな…




