第312話 ロボット製作①
何だったんだろうな…あれは…
拠点に戻ってきてからも姿の見えないあれについて気に掛かっていた。しかし、考えても仕方のないことだ。
確認するならばアルバインに潜入するしかないだろう。潜入するならば或駆羅に換装することになるだろうが、まあ、十中八九バレることになるな……ネズミやウサギへの憑依でもだめだ。
魔物に対する警戒は尋常なものではないだろう。そもそもその為の施設だ。まだ、人間の姿で尋ねた方がチャンスはありそう…
《無いです… 》
わかってるよ… そりゃあ門前払いだろうさ
帝国の機密が詰まってそうな場所だしな。最上級狩人だって一般人扱いだ。どうしても入りたいなら帝国騎士になるしかない。
《なるんですか? 》
いや、ならないよ…
集団で魔物と戦うとか一番正体バレしそうなパターンだ。せめてしっかりとした関係を築いてからだな。
それはそうとこれからどうするかだ。ガン・ザシャも多分すぐには襲ってこないし一度街に戻ることにする。
やりたいことがあるのだ。
翌日、街へ戻るためにギルド拠点に向かう。拠点の中に入って職員にしばらく魔境に戻ってこないことを告げようとしたところ思いがけない反応が返ってきた。
俺を見るなり少し取り乱して心配していたような口ぶりで話しかけてくる。
「レインさんっ、大丈夫でしたか!? 」
大丈夫……? なにがだ? 良くわからんな…
「大丈夫って言うのはどういうことだろうか? 」
「えっ…… 放送、聞いてなかったんですか? 」
…放送って何だ?
俺の反応にまるで流行に乗り遅れた人間を見るような目で見てくる。信じられないって顔だな。
なんか…スマンね…
「放送とは何だ? 」
だがあくまで堂々とした態度で正面からいく。俺は悪くない。
「電波放送ですよ、騎士団が流している… 受信機、持ってないんですか? 」
ないんですよ…
詳しく聞いてみたら、どうやらラジオ放送のことらしい。ここにいる狩人向けに緊急放送を行っていて魔境で何かがあった時に流して警戒を促しているという。
そう言えばアルバインに電波塔みたいのが立っていたな…
娯楽的な放送も行っているため狩りの間の暇つぶしに聞いている狩人も多いのだそう。
最初に教えてくれれば良かったんだが知っていて当たり前のことだと思っていたらしくコンラッドは教えてくれなかった。
あれ? エンジュは知らなかったのか?
《フフ… どうでしょうね? 》
それ、知っていた反応だよな? いや、まあいい…
俺も受信機を買うとしようか…
「特定危険個体が出現したって言う放送があったんですよ。他の狩人の皆さんは引き上げてきて残るはレインさんだけだったんですが… 」
ほう、それは心配かけたな… でも、それってひょっとすると…
「その危険個体というのは、ガン・ザシャという名前か? 」
「え? 何で知っているんですか… あっ、まさか… 」
そのまさかだ…
「戦ったよ、襲われたんでな… 」
「そっ、そんなっ! だいじょう…って平気そうですね 」
「倒せなかったがな… 騎士団の邪魔が入った 」
「……あれ…ですか 」
あれ…か… 心当たりがあるようだな
「知っているのか? 」
「狩猟者達のウワサ程度ですが… 」
「機械の巨人といった感じだったな 」
「目撃した狩人は何人もいます。アルバインから出てくるところをみたという狩人もいますね…
でも、国からは特にそれについての情報はありません。口止めをされると言うこともありませんが…
公然の秘密というやつでしょうね 」
ふむ… 俺がロボを作り上げたとして、それを公にするとして帝国はどう動くだろうな?
止めに入るんだろうか? それとも開発にスカウトしに来るのか?
二つを比べるなら後者の方が可能性が高いとみているが、一番あり得そうなのが特になにもしてこないってことだな…
個人の趣味にそこまで注意を払うなんてことはしてくるはずもない。そこまで暇ではないだろう。
「しかし、ガン・ザシャと遭遇してよくぞご無事で… 流石は最上級狩人… 流れでも活躍していただけのことはありますね 」
思いっきり褒めてくれるけどラジオを知らない田舎者に対するフォローにも聞こえるな…俺の穿った見方かもしれないが
素直に受け止められる人間になりたいよ
「次は仕留める 」
そう一言だけ言い残してギルド拠点を後にする。駐車場に停めていたトライクに乗り込んでタルタインの自宅へと走らせた。
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さて、いよいよ人が乗って動かせるロボットを製作していこう…
俺は自宅のガレージでひとり考える。
《私もいますが… 》
まあ、そうだけど……ん? エンジュはひとり換算でいいのか? 俺と違う……いや、深く考えるのはよそう。今は、ロボットのことだ…
亜空間は使わずに鉄術だけで仕上げていくことになる。今回は人目に触れてもきちんといいわけが出来るように人間としての能力だけで作り上げていくことが基本だ。
電動モータを動力源にしていくことを設計の中心に据えるのでモータを作り上げることもしなければならない。それに関しては銅術もそれなりに修得しているので何とかなるだろう。最悪、市販のものを改造したといういいわけも出来る。
実際、市販のパーツも使っていく設計なのでそこは信じてくれるはずだ。
まずは俺が乗り込むためのコックピットでもありメインフレームとなる胴体を作成していく。
機体をあまり大きくしたくないので剥き出しのコックピットに頭を出して上から乗るような、いわゆるライドアーマーといった形にしていく。
まず、大きな円筒形を作り出す。大きさは人ひとりが入って余裕があるぐらい。これがメインの外殻になる。
そこにハンドルと座席を内側に取り付けた大きなタライにも似ているコックピットをはめ込んでいく。試しに乗ってみると胸から上が出るような感じだ。
次に、腰関節を作り出す。これは人体の腰のように複雑な動きをするわけではなく体を捻るような動きをロボットにさせるためのものだ。
ほとんど全てがモータで出来ているユニットでただの円盤のような形状だ。これを円筒の底の部分へはめ込むように取り付ける。これで上半身を回転させることが可能だ。
腰部ユニットに取り付けるのは股間部ユニットだ。これは人体においては脚を前に上げたり横に上げたり、球状関節でぐりぐりと複雑な動きをする部分だ。
動力を人工筋肉タイプにして骨格を再現して作り出せば簡単ではあるのだがそれだと生物感のある生々しいパーツがつくことになる。有り体に言えばケツが生える。
なので三軸の運動を組み合わせたものを作り上げる。強度を上げるために横に開く運動はシリンダーを組み合わせた機構にしてそこに走るための前後運動と足全体を開くための回転運動をさせる二軸を取り付けた。
これを左右用意して股関節ユニットが完成する。出来たものを腰部ユニットに取り付けると次は脚部ユニットだ。
膝関節は一軸の曲げる運動だけでいい。九十度と少し程度の可動域しかないが柔軟体操までさせる必要はない。脚部はこれでいいだろう。
下半身最後のパーツは足部ユニットになるのだが足首や足の指と言った機能を再現するならば複雑な機構が必要になってくる。単純化するだけでは難しいだろう。
まず足首は二軸の組み合わせで再現しよう。腰ユニットのように回転する土台を作り出してそこに足首を前後に曲げる軸を取り付ける。
その末端に足を取り付けるのだがこれは人工筋肉タイプにする。人間の足を再現するのではなく鳥の足のような三本指に加えて後ろにもう一本ある形状にした。こちらの方が簡単だしロボットぽい感じがする。
指の先には滑り止め兼クッション材のゴムを取り付ける。
出来た足ユニットを脚部ユニットに取り付けたあと、それを股関節ユニットに取り付ける。これで下半身が完成した。
あとは腕を作れば一応の完成となるがその前にこの上体で試運転をしてみる。
寝かせていた機体を起こして中に乗り込むとハンドルレバーを握り魔力を流していく。雷属性魔力が電流を生み出しモーターを構成するコイルに流れる。
抵抗を受けて回転出来ないでいるモーターの振動によって機体が微かに振動する。まるで命を吹き込まれて心臓が拍動し出したようだ。
鉄術で足の指に力を入れてみると床を掴む抵抗感が伝わってきた。
俺の手には魔力の感覚によって各部アクチュエータの駆動がフィードバックされている。それぞれがどの程度の出力でどのぐらい動くのか個別で感触を掴んでいくと、いよいよ機体を直立させる段階へと写る。
こけないようにしないとな…
コンクリートの床につま先を固定してバランスを取りながら徐々に膝関節を伸ばしていく。
後ろ側に伸ばした足の指がいい仕事をした。普通ならかかとを降ろす時に大きくバランスが崩れそうなものだがそうなる前に接地してしっかりと支えてくれている。
ゆっくり膝と股関節を伸ばしていき終には直立することが出来た。全高にメートル程度の機体が真っ直ぐに立つと俺の頭はガレージの天井すれすれに来る。
圧迫感があるな…
ぶつからないと思うがなんとなくいやな予感がしたので膝を少し屈める感じにして天井から頭を離すと今度は操作に慣れるために屈伸運動をしてみることにした。
最初はゆっくりと行い、徐々に速くスムーズに行えるようになっていった。それにも慣れると次は歩行に挑戦していく。
足の指を広げて左右バランスを取りやすくしてから慎重に右足を上げていく。機体を左に傾けながら、左膝を少し曲げて右膝を前に出す。今度は左足を上げて逆を行う。
連続してそれを行うと足踏みとなる。足踏みのスピードを速くしていきスムーズな重心移動が出来るようになったら一旦止める。
そこに股関節の前後運動を加えて歩行が開始される。
最初は一歩ずつゆっくりと丁寧に足を進める。歩幅は三十センチぐらいでよちよち歩きといった感じ。そこに初期型ロボット特有の膝関節を曲げたまま動く感じが加わる。
よいしょ… よいしょ…、結構難しいものだな…
足踏みとでだいぶ難易度が違う。二段ぐらい一気に上がった感じがする。俺が幼かった頃はどうだっただろうか? もうまったく覚えていない…
シャッターの手前まで来たら後ろ向きで歩いて元の位置に戻ろうとする。
いつの間にかジュジュがその様子を興味深そうに見ていた。やはり俺の従魔だ。ロボが好きと…
《そうでしょうか? 》
まじめに聞かないでくれよ…
何往復もして歩行をマスターしていった。そこでこの機体の欠点にも気付く。
歩く時に上半身が左右に揺れる。当然、乗っているパイロットもだ。
腰部ユニットか股関節ユニットに垂直方向の軸を加えて制御させれば抑えることは可能だろうがそれをやると複雑になるし強度を出すのが難しくなる。
身長二メートルぐらいでは揺れも少なくあまり問題にならない。俺の体は強靱だしな…
走る時はロボ走りで抑えることは出来るし、改善するメリットはあまりないので今は放っておく。
もっと大きなロボットを作る時には再び問題として立ち上がってくるだろうがその時はその時で考えよう。
この時点で大きな問題はないようなので次は腕パーツを作っていく。だが、その前に休憩も兼ねて昼ご飯にしよう。ジュジュも待っている。




