第311話 分析 x 大いなるもの x 皇帝
考えなければならないことが多いな…
拠点の修復を行って今は休憩中だ。二階にあるベッドの上に寝っ転がっている。
傍らにはジュジュがいてスピスピと微かな寝息を立てている。顔を撫でて顎を掻いてやると体をくねらせて寝返りを打った。
少し整理するか… 考えるべき事は、
逃げたガン・ザシャについて
極性変異について
あのロボット、機動騎士について
俺のロボット製作について
の四つだな…
まずはガン・ザシャについてだな。あのエテ公はなんだかしつこい性格をしていそうだった。このまま引き下がるなんてことはないだろう。次にいつ襲ってくるかわからないのが困る。
負けることはないだろうが留守の間に拠点を破壊されたら堪ったものじゃない。いろいろ地下に移しておくか… 全体的に補強も必要だな…
あの時、無理にでも狩っておくべきだったか…
《あれに気を取られていたからですよ。自業自得です 》
……だよなぁ、だが仕方がないことだ。ロボットのことだもの…
大事なのはこれからだ。機動騎士が睨みを効かせているならヤツもそう簡単にここら辺には来ないだろう。案外心配しなくても、もう来ないかも知れないな
《楽観が過ぎるのでは? 》
そうかな? まあ、そう考えざるを得ないさ。どうにもならんからな
これについてはこのぐらいでいい。次にいこう。
極性変異についてだな…
今回初めて使ってみたがなかなかに凄まじいものだった。事前にコアの演算である程度わかっていたが予想以上だ。力が跳ね上がるような感じだった。
極性変異の前に普通の魔力変異があったはずだが俺の場合は起こらなかった…と言うわけではない。変異は起きていた。黒から黒に。微妙に艶が良くなっているような気がしたが誤差のようなものだ。
それに気がついた時、あまり目に見える変化がなくてガッカリしたものだ。しかし、変な色にならなかっただけ良かったと思うべきなんだろう。
まあ、そこはいい…問題は極性変異だ。
変化をする時にごっそりと魔力を消費するがかわりに魔力を扱う精度や昇圧させる能力が爆上がりする。それに魔力の回復力も相当上がる。無限に強力な魔術が打てそうな感じすらあった。
魔力が全回復するまで待ってから魔術を使ったならとんでもないことになりそうだが、当然デメリットもある。
長いこと変異を続けていると元に戻った時それに応じた強さの反動が来るようだ。長々と戦うのはリスクが高い。最悪の場合、命に関わる。
回復するまで待ってから戦うなんてのは無理だ。それに相手がいる以上、そんな悠長なことはしていられない。
ならば、消耗していない時、つまり戦いの最初から変異を行えばいいようにも思えるがそれも無理そうだ。
肉体と精神、そして魔石。その全てが高まっている状態になければ極性変異を起こすのは難しい。戦いの中で徐々に上げていかなければその領域に到達出来ない。
コアで制御を行って無理矢理そこに持っていくことは不可能ではないだろうが変な癖が付いてしまいそうだからやるべきではないんだろう。
体と心、魔石のどの部分にどんな変化をもたらすのか未知数過ぎて恐い。
魔物に関しては黒竜のケースを見る限り極性変異後の負担はあまりないように思えるのだが何故だろうか?
思うに肉体を変容させているからなのではないか?
肉体を変化させて膨大な魔力負荷に耐えられるようにしていると言うのが答えに近そうだ。
人間はほとんど肉体的変化をしないからどこかしらに無理が生じてくる。
そんなところか…
肉体を魔物のように変化させることが出来れば負担を減らすことが出来るはずなんだが調べてもそうは成りそうもない。
人間は人間で何かルールがあるんだろう。今はそれぐらいでいいか…
次はお待ちかねのロボットについてだな。
《誰も待っていませんが… 》
聞こえなーい。とにかく始めるぜ…
あの機動騎士は遺跡で見たものと似てはいるもののデザインの系統がなんとなく違うように感じた。
ひょっとしたら遺跡から発掘した物ではなくて新しく作り上げたものなのかも知れない。
魔力を併用していること、パイロットが今の人間でありそれに合わせたシステムを開発、搭載している可能性が濃厚であることを考えればコアになる理力石は昔の物を使っているのだろうが、それを除けばほとんど一から作り上げているといった具合だろう。
あれだけの物を作り上げる技術は民間レベルではないのかも知れないが国防と言った分野では既に完成されている。
それを受けて最後の話になる。
俺ももうそろそろ人が乗るロボットを作り出してもいいんじゃないだろうか?
《時期尚早ではないでしょうか… 人に見られたら面倒なことになりますよ? 》
それはわかっている
とりあえず今のところ人前に出すつもりはない。仮に見られたところで言い訳をするための策はある。
《どのような策ですか? 》
今は言えない(キリッ)
《………(イラッ) 》
《まあ、いいでしょう。マスターのご自由に… 》
そうさせてもらうさ
主体はあくまで俺にある。好きにしたい…とは言えそれはもう少し先の話だ。しばらくはここでやらなければならないことがある。
……夕飯の準備でもするか
~~~~~~~~~~~~~~~~~
魔境の空を飛ぶ二機の機動騎士と遭遇してから四日が経過した。
あれからガン・ザシャを警戒して狩り場の見回りを行いつつ、大木を見かけたら上まで登って上空を見回すことを繰り返している。
再び機動騎士を、とりわけあれとは別タイプの機体が行動していないか見ておきたかったのだが、アルバイン要塞の周辺を飛ぶ姿は見かけても皆あれと同じ機体のようだった。
残念ではあるが仕方がない。まだ、何日も経っていないしそう簡単に見られる物でもないだろう。
だが、俺の予想では何種類も存在している。いつか必ず外に出てくる。粘っていれば必ず観察出来るはずだ。
そう考えて今日も木の上から顔を出してアルバインを眺めている。
すると要塞に何やら違和感を覚えた。
ん? なんだ?
僅かだが変化がある。いや、変化を続けている。どうやらドーム状になっている天井が開きつつあるらしい。あまりにもゆっくりだし大きな変化がないのですぐには気付けなかった。
左右にスライドするかたちで開いているようだな…
やがて天井は開ききったのかそれ以上動くことはなかった。
だいぶ大きく開いたと思う。おそらく中から大型の機動騎士が出てくるのではないかと当たりを付ける。
いや、もしかしたら沢山の機体が出てきて大規模演習でもするのではないか?
ワクワクして見ていた。しかし、一向に動きがない。
どうした? やらないのか?
はやる気持ちを抑え込んでじっと見ていた。そして、気付いた。
……感じる… あれは……なんだ?
上空に巨大で、透明な何かがいる。空間のゆらぎも気配も何も感じないが確かに感じる。何かが宙に浮いている。
そいつはゆっくりと進みアルバインの天井に出来た開口部の真上まで来て止まった。変わらぬゆっくりとした動きで降りていくと完全に要塞の中に納まっていく。
すると天井は先ほどと逆に動いて閉じる。完全に閉じられたあともしばらく見ていたがそれ以上何かが起きることはなかった。
<<<<<<<<<<<<
(別視点)
断崖壁に接するようにして半円状に広がるブラッセンの市街地。その半円の中心には騎士団の要塞がある。
断崖壁にへばりつくようなかたちで建設されたその要塞。いつもなら帝国騎士達が律動的に日々の任務を熟すだけなのだがこの日は違った。
慌ただしく動いて警備態勢を整えていく。すべてが整い街に面した城門から断崖壁の門まで道の両側を騎士達が整然と並ぶ。
街の外縁部から砦へと続く道筋、すなわちブラッセン中央通りも人払いがなされていて至る所に警備の騎士達が配置されている。
一目でやんごとなき身分の者を迎え入れようとしていることがわかる。
普段であれば車通りがあっただろうがらんとした道を三台から成る車列が、車としてはゆっくりとした速度で入ってくる。
そのまま一定の速度を保ち、開け放たれた城門の手前まで来ると更に速度を落として砦に入っていく。
砦の中程で車列は止まる。すると控えていた騎士が中程にある豪奢な作りの車に近づいて扉を外側から開ける。
護衛の騎士と思われる一人が車から出てきてそばに控えると、次いで一人の男が中からゆったりとした足取りで進み出てきた。
白髪白眉、顎には白い髭を蓄えた老人である。顔には深いしわが刻まれている。
煌びやかで荘厳な衣服に身を包んでいる。しかし、老人の威厳を保つのは決して装飾などではない。
背筋が真っ直ぐに伸びた巨躯はがっしりとしていて筋肉の盛り上がりが服の上からでも垣間見える。とても老人とは思えない生命力を感じさせる。
眼光は鋭く見る者を圧倒させるに十分な迫力があった。
全てにおいてただならない空気を纏っている。
この老人がリューネハウゼン帝国現皇帝、アルクトゥレム・ゼイス・リューネハウゼンである。
砦を任されている司令官が皇帝の元に近づくと背筋を正して案内を買って出る。
「お待ちしておりました、陛下。準備は整っております。こちらへ 」
「うむ 」
それに一言だけ答えると乗車を乗り換えた。
分厚い装甲で包まれた巨大な箱のような車だ。皇帝をアルバイン要塞まで送り届けるために作られた専用車両だった。
その前後を同じく分厚い装甲を持った車が挟む。屋根がなく剥き出しの座席に幾人もの騎士が乗っている。護衛のための車両だ。
魔境と人界を隔てる断崖壁の分厚く巨大な門が開いていく。三分の一程まで上がると新たな車列はアルバインに向けて出発する。
魔境の中を一直線に伸びる道はブラッセンからアルパインの姿をはっきりと見せていた。皇帝がそんな道を進んでいく。
アルバインの周辺には空堀が設置されている。皇帝一行が到着するとそこに跳ね橋が下ろされ門が開いていき中に招き入れた。
流石にここでは手厚い歓迎までは行われず上級騎士数名による案内に留まる。皇帝は客室に通されてそこで一晩を明かすことになる。だが皇帝を迎え入れるには簡素に過ぎるような飾り気のない部屋だった。
一人用の寝台と机が置いてあるだけのたいして広くもない部屋。隅々まで清掃が行き届いてはいるが皇帝を迎え入れる専用の部屋というわけではない。そこはただの客室だった。
魔境にある要塞ならば致し方ないことではある。
皇帝の権力を持ってすれば例え魔境の中であってたとしていくらでも豪華絢爛な部屋を用意することは可能であったが、頓着がないのか合理主義であるのかそのようなことはしなかった。
提供される食事においても特別なものを用意させる事などなく騎士達に出されている食事と同じものを食べる。
このような扱いに慣れているのか当然のことと考えているのか、そこに対して言及することもない。表情一つ変えずに受け入れていた。
皇帝がアルバインに来た翌日の昼下がりのことだ。
皇帝はアルバインの中でも一際大きな格納庫にやって来ていた。要塞の最下部から天井までを吹き抜けにした大空間である。
高い位置に空間の中心に向かって伸びる、飛び込み台のような途中までの吊り床が設けられていて皇帝はそこの末端部に近い位置に来ていた。近衛騎士と言ったごく一部の者たちを従えている。
見上げているとゆっくりと左右に天井が開いていく。一見すると表情に変化は見られない。しかし、皇帝を良く知る者が見れば期待にそわそわと胸を躍らせているときの顔を必死に噛み殺していることがわかっただろう。
やがて完全に天井が開いて止まる。辺りはしんとした静寂に包まれた。誰もが押し黙ったように口を開かない。
ただただ静かな時間が流れている。何も起こってはいないように見える。しかし、それはゆっくりと上空から降りてきている。
何も見えない。だが、確かにそれは存在している。巨大な何かが天井に開いた出入り口を潜り、格納庫へと身を納めつつあった。
風も音もなくその存在を知覚することは難しい。だが、強者にはそれが放つ気配を感じ取ることが出来る。この場にいる者達は皇帝を含めてそれが出来ていた。
完全に格納庫へ入りきり、重い物が床に降り立ったことを示す微かな振動が伝わってくる。
その直後に天井は閉じられていき完全に閉じると、いよいよそれが姿を現していく。
膜が徐々に剥がれていくように姿が顕わになっていった。巨大な人型が格納庫の中に直立する姿勢で存在していた。
機動騎士ではあるのだろう。材質や雰囲気はよく似ている。ただ、その大きさは段違いだ。形状も一目で人の形をしているとは分かるのだが手足は太く、分厚い装甲を纏っていて要塞のようにも見える。
胸部装甲がゆっくりと上に向かって開いていったあと、次に中から表れた第二装甲板が下へと開いていく。それが完全に降りると胸部の中心に一際装甲が盛り上がっている場所が合った。
そこが下へと開いていくと伸びていき皇帝がいる吊り床へと通路が出来上がる。機動騎士の胸元には操縦席へと繋がる搭乗口がぽっかりと空いて黒々とした闇を覗かせている。
皇帝は無表情ではあるがどこか目を輝かせて闇を見つめていた。やがて中から一人の男が現れ、通路を渡って皇帝の前へと進み出てくる。
騎士服に身を包んだがっしりとした体格の男だった。髪色も目の色も灰色をしている。大きな魔力を持ち、それが変異によるものだと想像出来る。切れ長の目が見る者に鋭さを想像させる。
その男は皇帝の前に来て敬礼を行うと皇帝の脇を通り過ぎて後ろに並ぼうとした。だが次の瞬間、男が動くよりも先に皇帝は床に跪こうと体を折り曲げて頭を下げ出した。
皇帝の動きを察知した男は若干の動揺をしつつも弾かれるように素早く動きだす。皇帝の後ろ側へ翻ると同じように跪く体勢を取った。
おつきの近衛騎士達も遅れまいと、皆一様に臣下の礼を取った。
皆が機動騎士に対して、いや、その中にいる人物へと最敬礼を行う。誰もが一言も発することはない。
そんな緊張した空気の中、遅れて一人の人物が操縦席の中から姿を現した。ゆったりした足取りで頭を下げる皇帝の前へ進み出てきた。
金髪金眼で中性的な顔立ちの青年だった。純白の法服を身に纏っていて神々しいまでの雰囲気を醸し出している。
その額には金色の結晶が美しい光を放っていた。




